弁政連ニュース
特集〈座談会〉
子どもたちを虐待から守るために
〜改正児童福祉法・児童虐待防止法のこれから〜(6/6)
〜改正児童福祉法・児童虐待防止法のこれから〜(6/6)
今後の立法上の課題
【石井】親の子どもに対する懲戒権の見直しが法制審議会でスタートします。日弁連は、懲戒権廃止の方向で意見書を出していますが、今後の見通しやその他の立法上の課題について、磯谷さんのお考えをお聞かせください。
【磯谷】今回の改正で親権者の体罰の禁止が盛り込まれて、とても良かったと思います。ただ、よく規定をみると懲戒権の陰がまだちらついています。国会の審議でも、体罰に該当する懲戒権行使は許されないと明言されましたけど、一方で、それではどこからが体罰かという議論がこれからなんですね。また、許される懲戒はどこまでかという議論もあり得て、結局、体罰禁止の趣旨が曖昧になりかねません。やはり以前から日弁連が意見を出しているように、懲戒権そのものを削除することで、体罰を完全に禁止する必要があると思います。懲戒権の削除については、懲戒権がないとしつけができなくなるのではないかというような懸念が示されることがありますが、いわゆる監護教育権の範囲内でしつけは可能なはずですし、懲戒権を廃止してもしつけができなくなるわけではないということは、議論の中で整理ができると思います。
法制審の議論については、これまでいくつも関わらせていただきました。いずれも、とても意義のある議論ができたと思っていますが、同時に、家族を取り巻く問題については、必ずしも実証的な研究とか長期的な研究というのがなく、それにもかかわらず、それぞれの価値観で議論されていることにちょっと不安を感じていました。特に、このところ痛ましい虐待死事件が続いていますが、そういうときは、十分な研究や議論のないまま、とりあえず形を整えようということで、政治主導で議論が進む傾向があるように感じます。事件を繰り返してはならないという強い思いはとても大切なのですが、やはり法制度を論じるにあたっては、多角的に冷静な議論をする必要があると思うのです。法というのは大きな論理の体系であり、いろんなところに波及するものでもありますので、これからはしっかりとした実証的な研究も踏まえたうえで議論できるといいと思います。研究者の方々には立法の基礎になるような研究にしっかり力を入れていただければと思いますし、政治はそれを支援してほしいと思います。
【石井】奥山さん、東さん、児童虐待防止の観点から、国、地方自治体、行政、地方議会に対してご意見があればお聞かせください。
【奥山】2004年の児童虐待防止法の改正のための委員会の時からずっと議論になっていた点として、一時保護に関しては後付けでもいいからすべて司法の関与が必要だということや、さきほどの治療命令が必要だということでした。ところが最高裁が後ろ向きなものですから、結局児相に権限を与えて、それを膨らませてきました。その制度の在り方に無理が来ているのではないかと思います。もう少し司法の関与ができる体制を作っていくべきでしょう。子どもの権利条約でも行政だけで子どもを親から分離をしてはいけないと書かれています。そういうことを考えても、私は裁判所の令状でいいのではないかと思いますが、関与が必要です。また警察と児相の関係では、警察の中でチームを作って虐待にもっと理解を持ち、双方に情報が共有される多職種チームが必要と思います。児相だけに権限を与えて児相だけを膨らませれば何とかなるという考え方は少し後退させた方がいいと思います。児相は子どもを権利侵害から守る中心的な機関だというところを明確にして、それといろんな機関がきちんと一緒にチームとして動いて子どもの命と権利を守っていくという仕組み作るべきと思います。
【東】児相の介入機能ばかり強化するのではなく、予防・再発防止のためには、特定妊婦の支援も含めて「親支援」のシステムを作り、人を配置する必要があります。予防・発見の面では地域の関係機関の対応力強化が必要です。また現状では親子分離した後にその子にあった施設を選ぶのではなく、今空いているところに行ってもらう、空きがでるのを待ってもらうという状況があり、里親登録者も足りていません。子どもたちに健やかな育ちを保障するために、親子分離後に手厚い支援ができるように十分な予算と工夫をしてほしいと思います。
【石井】議論も尽きぬところではありますが、日本における子どもの権利擁護が発展することを祈念して本日の議論を終えたいと思います。どうもありがとうございました。
(2019年7月10日 霞ヶ関弁護士会館)

特集
クローズアップ
活動日誌
ご案内・お知らせ