弁政連ニュース

特集〈座談会〉

子どもたちを虐待から守るために
〜改正児童福祉法・児童虐待防止法のこれから〜(4/6)

最近の法改正

【石井】ここで磯谷さんから、最近の児童福祉法などの改正の経緯についてご説明いただけますでしょうか。

【磯谷】日本における近年の児童虐待防止対策の出発点は、2000年に児童虐待防止法が成立したことだと思います。

その後も、要保護児童対策地域協議会の設置や臨検捜索制度の導入など、特に法的ツールの面で法改正が積み重ねられてきました。しかし、2016年の改正はそれまでとは異なり、かなり根本的な議論に基づいて改正がなされたと思います。特に、子どもの権利擁護という視点を児童福祉法の最初に掲げたことはとても画期的だと感じています。この考え方が、児童福祉の中でどのように子どもの権利を守るのかという議論につながって、今年の体罰の禁止に至ったと考えています。弁護士としては、児相に弁護士を配置するという規定が盛り込まれたことが非常に大きなインパクトになりまして、その後日弁連では、これに対応するために特別なチームを作り、厚労省とも協議をしながら、日弁連としての態勢をつくってきました。

2017年には、実務的にインパクトの大きかった、2カ月を超える一時保護に司法審査を導入する法改正がなされました。児相としてはそれなりの負担になっているのだろうと思いますが、裁判所とも協議を重ねまして、実務的には概ね固まってきたかなと感じています。

今年、2019年の改正は、東京都目黒区での死亡事件や千葉県の死亡事件が大きなきっかけになりました。その中でしつけの目的で結局死に至らせてしまったというところから、体罰を禁止する必要があるのではという議論が、国会の内外で沸き上がったのが特徴的だったと思います。日弁連は以前から体罰の禁止、それから民法の懲戒権規定の削除を求めてきたところでしたので、少なくともその一つが達成できたことになります。もちろん体罰の禁止は法律に書けば済む話ではなくて、具体的に実現化していくために国会の議論でもガイドラインを作ると言われていましたし、また体罰禁止というのは処罰をするということではなくて、体罰に頼らない子育てを国民一般に浸透させていくのが一番大切ですから、そこに向けて国も弁護士会も努力していく必要があると思います。また児相の体制強化が非常に大きなテーマとして改正されました。弁護士の配置にも触れましたけど今回は医師や保健師の配置も義務化されました。これまで所謂規則レベルで定められてきた児童心理司についてもきちんと位置付け、さらに配置の基準についても法律でとっかかりができるようにしました。

それから2017年の8月に奥山さんが座長になって取りまとめられた厚労省の「新しい社会的養育ビジョン」の中で虐待のケースで特別養子をもっと活用するという方針が打ち出されて、それに基づいて民法の特別養子の規定などが改正されました。

【奥山】2016年改正で、児童福祉法第1条で全ての子どもが権利の主体であるということを明確にした意義は大きかったと思います。その理念を浸透させるように考えていかなければならないと思います。

もう一つ大きく変わったのは特別養子縁組もあるのですけど、家庭養育優先原則です。子どもは家庭で育つ権利があることを前面に打ち出し、特に乳幼児は家庭が重要だということを改正法の実装の在り方を描いた「新しい社会的養育ビジョン」では具体的に示しています。

2017年改正で、児童福祉法28条の申立てがあった場合に、家庭裁判所が都道府県に保護者指導を勧告できるようになりました。それが本当に有効に使われるかが重要だと思っています。なぜかというと、例えば今回のような事件のお父さんが自分から治療に行くのはあり得ない。奥山そのような事案で治療命令を出せるようにしてほしいということはずっと言ってきたのですけど、これまで中々うまくできませんでした。諸外国では司法命令で治療が受けられるので、医師の治療プログラムが発展してきているのですけど、日本はそのような制度がなかったので、治療プログラムが発展しなかったわけです。我々としては治療命令がうまく使われるようになれば、治療プログラムを発展させていけるのではないかという期待を持っています。

アドボケイト制度

【石井】子どもの意見、言い分を尊重する子どもの手続代理人の意義、その活動に対する援助制度のようなものがあると思うのですが、この点について磯谷さんからご意見をいただけませんでしょうか。

【磯谷】子どもの手続代理人は家事事件手続法に規定されていて、子ども自身が手続行為をする際に代理をするのですが、残念ながら法テラスは特に扶助の対象にしておらず、日弁連の委託援助事業としてお金が出ています。子どものアドボケイトについては弁護士が一定の役割を果たせると思いますので、やはり国が法テラスなどを通してある程度の資金的な手当てをすることは非常に重要だと思います。ボランティアでやるのは現実的ではないと思います。

【石井】日弁連の委託援助事業を見ると、虐待親との交渉代理であるとか、児相の手続代理などについても援助できるようですが、利用されているのでしょうか。

【磯谷】それなりに利用されています。ただ日弁連の委託援助事業は会員である弁護士が費用を負担していますので、ある意味「タコが自分の足を食べている」ようなものですし、子どもの権利擁護については児童福祉法にも規定されていて、子どものアドボケイターはまさにそれを実現して行こうという具体的な取組なのですから、国の責任において手当てをしていかなければならないと思います。



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