弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

司法修習生に対する
経済的支援(4/6)


【柳楽】最近は報道などでも、司法試験の合格者が発表されるたびに法曹志望者が減っているという記事が書かれていると思いますが、そういう状態をかなり重く受け止める流れが一つの動きになってきたかなと思います。貸与制が導入されてから現在に至るまでの経緯というものを軽くおさらいして進みたいと思います。まず貸与制が始まってから最初のオフィシャルの動きとしては2012年7月の裁判所法改正で、経済的困窮者に対する返還猶予というものが少し付け加えられました。そのあと法曹養成制度改革推進会議決定(2015年6月30日)で、司法試験の合格者数について、「当面、これより規模は縮小するとしても、1500人は輩出されるよう必要な取り組みを進め」という文言が書かれるとともに、「法務省は最高裁判所等との連携・協力の下、…司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする」という決定が出されたわけです。それを踏まえて2015年12月に、法曹養成制度改革連絡協議会が発足いたしました。そして経済状況調査が今年の3月に実施され、この結果が7月の連絡協議会で報告されました。一方、2016年5月には自民党の司法制度調査会において「法の支配を基盤とする日本型司法制度」という中間提言がだされ、その中で「司法修習過程における経済的支援を拡充・強化する必要がある」と明記されました。その直後、政府のいわゆる「骨太の方針」の中にも「司法修習生に対する経済的支援を含む法曹人材確保の充実・強化」という文言が盛り込まれました。そして、給費の実現・修習手当を求める国会議員メッセージの数は両院議員717人中453人(2016年12月6日現在)と6 割を超えている状況です。ここまで国会議員の皆様の応援をいただける状況になったわけなのですが、どのあたりがターニングポイントになったかお聞きしたいのですが、まずは日弁連はどう分析していますか。

【新里】日弁連からすると法曹養成をめぐる審議会、新里検討会が開かれている中で実態を踏まえた検討がなかなか進まない一方で、国会議員の先生方が熱心に議論をしてくださっているのではという思いがあって、2014年の12月から国会議員の応援メッセージを集めようというアイデアが出て、取組みを始めました。これまでもいろんな集会をさせていただいて、メッセージや御挨拶をいただいたりするのですが、それらが集約されず、どれだけの国会議員の先生が応援してくださっているのかよくわからない。そこで運動の見える化をして私たちがこうした賛同を得て運動の力にしていきたいという思いの中で始めさせていただきました。これは国会議員の先生方ともやり方をご相談させていただきました。例えば署名を出すのにはハードルが高い場合にも、関心が高いという応援メッセージであれば、議員個人の意思で議員自身の言葉を書くことができるということで意外にも集めることができた。また、メッセージに顔写真が入ることで、この人が何か語っているように見える。ああ本当に応援してくれているんだなと見えてきて、これを持っていくと今まで関心のなかった先生もこの問題に関心を持つきっかけになりました。そうすると熱心に取り組んでくださっている先生方も党内の取りまとめの中でやりやすくなるのではと考えました。この運動は、日弁連、弁護士会、弁政連とビギナーズ・ネットとの連携によって地道に続けてきました。そういう地道な運動をすることで、100人集まったあたりから流れが変わってきました。やっぱり法律を変える政治の世界の方が法曹の世界についても非常に関心を持っていただき、応援してくださっているという姿が目に見える形で出てきた。そこで一つ変わってきたのかなと思います。そして、それとともに、責任のある立場の議員の先生方が現場の声を踏まえてご尽力いただき、説得してまとめていってくださったと思います。それらが一つ一つ積み重ねられ、一つは2015年6月の推進会議決定の中では経済的支援の「在り方を検討」という形だったのですが、骨太の方針では「司法修習生に対する経済的支援を含む法曹人材確保の充実・強化」という形で、今の課題にまで引き上げていただいた。そういう流れだったのかなと思います。

【中村】それと同時に例えば日本医師会、日本歯科医師会や財界など全国にいろいろな団体がありますが、この団体の方々にも経済的支援の実現に対して賛同いただき、署名やメッセージを寄せていただきました。これもひとつのターニングポイントになったのではと思います。

【柳楽】地道な活動の一番地道なところをやってきたビギナーズ・ネットの萱野さんはどうですか。

【萱野】本当に地道なところでいえば、挨拶運動というものがありまして、国会開催中は週に二回、参議院議員会館の前でビギナーズ・ネットのテーマカラーである水色のTシャツを着て、通行する議員の方や秘書の方に笑顔でご挨拶をするというだけの活動を5 ~ 6年続けています。

【柳楽】そこに立っているだけで目に留まりますからね。

【萱野】そうです。特にメガホンを使って訴えるわけではないので、逆に皆さん珍しいようで、気にしていただいて、議員さんも次第に声をかけてくださって、その時にこういう問題でお願いをしていることがあるのですというと、じゃあ今度議員会館の中に来ないかということで、話を聞いてもらったりすることがありました。それは非常に地味な活動で、今もずっと続けています。



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