弁政連ニュース

特集〈座談会〉

行政府への出向者 大いに語る
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島村

【島村】情報公開法の強化は、基本的にどの省庁もネガティブになりがちですね。省庁としては負担が増すことになりかねませんので。その意味でいろんな声が出てきますが、できるだけオープンに、ということで、各省の意見を集めて公開したり、特に利害の強い省庁には公開ヒアリングを実施したりするなどの工夫をして、最終的に良いものができるように努力しています。税調では、各有識者のご見解の相違が激しくぶつかる場面もあります。職員の声を集める業務では、省庁間の対立というより、声を上げた役人の方が、所属省庁で不利な扱いなど受けないように制度設計をすることが一つのポイントです。

【相澤】デスクワークが多いかという話に戻りますと、私も自分の机にずっといるという感じではないですね。もちろん、資料作成や電話対応と机に張り付くこともありますが、各省の事務方と打合せ、外部有識者との会議、政務の方への報告・相談、様々な会合への出席・傍聴、外での講演、議員の方への説明等々、様々なことをしなければなりません。外に出るか官庁の中にいるかはケースバイケースですが、いずれにせよ机の前で資料を見たり書面を作るばかりの業務ではありません。


弁護士が行政に入っていくことの意義

【鈴木】弁護士としてのスキルは今のポジションでどのように役立っていますか?

【江黒】弁護士として、案件ごとにその業界のことやバックグラウンドを勉強するという、事案に応じて一から勉強していくという姿勢は、政策に関わる場面でも役に立っているかもしれないなと思ったことはあります。

【岡本】ここに問題点がありそうだと思ったときに、事実把握や解決に向けてアプローチしていく考え方というのを弁護士は持っていると思います。 個々の事件の経験を通して。法的な思考能力というのでしょうか。問題を発見してそれに裏付けを探して書面を作り上げるという、弁護士が普段やっている民事事件などの経験は、行政改革の部局では非常 に役に立つと思います。事業仕分けというのは、1つの事業について徹底的に調査したうえで、公開の場で議論をしてもらうわけで、その準備作業は、ある意味で訴訟の準備作業とか破産事件の管財人とし ての処理などに似ている面があります。それらの分野における弁護士経験は事業仕分け作業に大きく役立っています。

【相澤】私の場合は弁護士の経験もありますが、更に企業のコンサルタントとしての経験が生きていると思います。弁護士としては、特に事業再生における債権者間の調整の経験は大きかったと思います。番号制度というものが、各省の意見を始めとした様々な意見を調整して作り上げていく、そういうものであるということが大きいかもしれませんが。

【鈴木】島村さんの担当されている仕事は情報公開論ですね。これはまさに法律家としてのスキルが活かされる分野かと思うのですが。

【島村】そうですね。当時行政刷新大臣だった枝野大臣の名前で改正案、方向性みたいなのを出して、それを民間の有識者の方々に集まっていただいて、意見を出していただいてブラッシュアップしていく、最終的には情報公開法の改正の方向性を作るというような流れです。法律の中身を考えるというわけですから法曹にとってはもともと親和性のある業 務ですね。

【鈴木】弁護士という職種が行政組織に入って行くことに対する期待のようなものは感じられましたか?

【相澤】行政機構の一部に組み込まれていない民間の人間が行政に携わるということは行政の流儀を変えられる可能性があるわけで、そういった観点から行政や国にとっての意義が相応にあると思います。これは民間であることに意味があるので弁護士に限った話ではないのですが、その中でも弁護士というのは特定の業界との結びつきのない、あるいは薄 い存在で、よりフェアな視点を持っている、更には人権意識が強いという意味での意見を期待されている、そういう意見が行政に組み込まれていくという意義は大きいと思います。

【島村】情報公開法は、どの官僚にとってもその存在自体が負担になるような制度でして、国民の知る権利を守るためにあるけれども、他方で、それによって行政機関の業務の負担が増えてしまうというものです。これはどの省庁の方がやったとしても基本的にネガティブになりがちな法律なので、その中に民間人である弁護士が入っていって作るということの社会的な意義は大変大きいと思います。

【岡本】医師などもそうかもしれませんが、弁護士が仕事を請負う動機は私益にはありません。もちろん経営者としてお金は稼がないといけないのですが、決して利潤だけのために動かないという意味です。自分が社会において正義を担っているプロフェッショナルなんだと、そういう矜恃で職を全うしている者が、行政組織であったり、場合によっては政治家になったりというのは、国にとって非常にいいことだと思いますし、逆に言えば今それが強く求められている時期じゃないかと思います。政策形成プロセスや政策評価の段階で弁護士がそのスキルを活かせる時代になってきたと思います。

【相澤】番号制度に関係するのは、財務省、厚労省、総務省等々あるのですが、もしこれをいずれかの省庁出身の人間がやってしまうと、どうしてもフェアに取り上げてくれないのではないかという疑念を持たれてしまいがちです。そこを外部から入った私がやったので、そういった偏見を持たれないというメリットはあったかもしれません。他方で、各省の担当事項の専門家は各省であり、彼らの意見を十分理解しないままでは的確な調整はできませんし、ともすればおかしな制度になってしまいかねません。従って、制度・政策について、自分で勉強すること はもちろん、各省の方たちとの人間関係を良好にして制度の実情などの情報を教えてもらうことがとても重要です。このように、第三者だからこそまとめやすいというメリットがある反面、第三者として相 応の努力をしなければならないという側面もあるなと思いました。

【江黒】成長戦略でも、縦割り行政が問題となっているところでは、各省と折衝をしなければならないので、その官庁の出身の方だとやはり難しい面があるかもしれません。その点、民間人である弁護士が交渉を担当するメリットはあるかと思います。


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