弁政連ニュース

特集〈座談会〉

民事扶助・日弁連援助事業の公費・国費化(4/6)

犯罪被害者保護の問題

【安藤】犯罪被害者保護の問題に移ります。黒井さんにお伺いします。

【黒井】今、日弁連援助で実施している犯罪被害者支援の中身についてですが、現時点で民事扶助で対応している部分は基本的にはない。つまり民事扶助は民事上の請求権を取り扱うものなので、犯罪被害に遭った人が刑事手続において弁護士による公的支援を受けるという点について基本的に対応していないわけです。現段階で国費が投入されているのが、国選の被害者参加弁護士制度で、これは起訴された後の話です。そこで、日弁連援助で取り扱っているのは、基本的には犯罪に遭ってから、被疑者が起訴されるまでのところについてです。この部分について、国による支援がない、国費投入がないというところが一番の問題なんだと思います。我々弁護士が被害者あるいはご遺族から被害があったと依頼を受けた場合には、被害者の方から例えば被害届を出すとか告訴するか、というところから相談を受けます。それから被疑者が逮捕されたということになると、警察へ事情聴取に付き添ったり、どんなことを聞かれるか説明したり、検察庁に行く際のアドバイスをしたりします。一番大きな活動が示談対応です。日弁連援助では、積極的に損害賠償請求するという場合は使えないことになっていますが、加害者弁護人から示談の申し入れがあった場合には、この制度を使って弁護士をつけられ、実はこの示談対応が活動内容として一番多いんです。被害者、特に性犯罪の被害者の方が、弁護人から示談の申し入れがあって、金額はこうだけども宥恕しろ等、素人の方にはわかりにくい話を弁護人から、つまりプロから言われて、被害者の方が自分で対応できないというときに、弁護士がついて法的なアドバイスをするのはすごく重要な活動です。また、大きな事件、マスコミを賑わすような事件が起きたときに、マスコミが自宅や親族のところに殺到したり葬儀会場に殺到したりすることがありまして、報道対応、あるいは遺族や被害者からコメントを発表する等して、情報をコントロールするという重要な作業があるんですが、これも日弁連援助の中身に入っていて、割と利用されていると感じています。データとしては、2020年度の日弁連援助の利用件数、申込処理件数が1687件、それに伴う事業費は約1 億9000万円ということになっています。

ですので、仮に国費を投入するということになっても、そんな大規模の予算ではない。今、日弁連援助では資力基準、資産300万円以下という制限が設けられています。しかし割と若い人がお金はそれなりに貯金で持っていたりして、この援助事業も使えないということが見られます。この辺りは現状の課題かなあと思っています。ただ日弁連援助そのものは割とうまくいっており、この制度にそのまま国費を投入してもらえれば、途切れのない支援が出来ると思っています。

【安藤】日弁連援助制度、これを継続的あるいは規模拡大をさせていくとなると、日弁連だけでは難しいのでしょうか。

【黒井】弁護士から特別会費を集めてこの事業を運営しているわけですが、予算としていつまでも確保できるわけではありませんし、これ以上拡大するのは難しいと思います。結局、日弁連援助を運営するについても、予算上の問題から、中身を絞ったり、援助の金額も、なかなか上げられないので、そういう意味では日弁連という民間で運営していくのは、限界がある。そもそも被害者が弁護士の支援を受けるのは権利であるとして、国がやっていくべきだと考えています。

【安藤】特別会費の話が出ましたが、現在の特別会費は弁護士1名あたり月額2100円ですね。

ところで黒井さんは北欧へ調査に行かれたんですよね。

【黒井】日弁連の委員会委員として2014年と2017年に、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドを訪問し、それぞれの国の被害者支援の仕組みについて、調査を行ってきました。

各国の状況

【安藤】犯罪被害者に関して北欧の実情をお話いただけますか。

【黒井】大きく分けて被害補償の面と、法的な弁護士の制度の面というのがあって、ノルウェーでもスウェーデンでも被害補償を取り扱う省庁があります。ノルウェーは慰謝料的な部分について国が先に補償として払ってしまうといった制度。スウェーデンは、被害者が裁判をして、判決を取って、強制執行してうまくいかなかった場合は国がそれを代わりに強制執行したり、それでも取れなければ被害者に立て替えるということをしています。その辺が日本と全然違うところです。もう一つは、弁護士制度です。ノルウェー、スウェーデン、フィンランドも同じような制度があります。昔の国選弁護人のように、裁判所が名簿を持っていて加害者が逮捕されたとか事件が発生したときには、その通知が行って、裁判所から、弁護士が被害者のところに派遣されてきて、相談に応じたりするという制度が整っていて、資力基準も全然ないです。性犯罪から導入が進められていたんですけども、現時点では暴力犯罪についても広く国費による弁護制度が普及しています。また、私達が調べた限りではアメリカでも州によって、そういう制度があるようです。

【安藤】「ノルウェー・スウェーデン・フィンランド犯罪被害者支援制度に関する調査報告書~2014・2017北欧調査結果~」が日弁連のHPでも公開されていますね。ちなみに諸外国の話が出ましたので諸外国の法テラスに対応する組織の利用方法について、私から少し説明しますと、例えばアメリカ、イギリス、韓国は、いずれも給付が原則になっているようです。日本の民事扶助が立替償還制度をとっているというのは、諸外国と比べるとイレギュラーな状態のようです。こういった点を踏まえて、皆様に今一度、公費の割り当てが少ない、あるいはないという状態に対してのお考えをお伺いいたします。



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