弁政連ニュース

特集〈座談会〉

LGBT
―今こそ性別平等の立法課題の解決を(4/6)

LGBTの家族の保護と性別変更の問題点

【本多】セクシュアルマイノリティの人と一緒に暮らす人たちを家族として保護するということも政治課題になっています。例えば、国連人権高等弁務官の2015年の報告書では、同性カップルとその子どもたちを法的に承認し、伝統的に婚姻している夫婦に与えられてきた年金、税金、財産承継などの便益を差別なく与えることや、あるいは、不妊,強制手術および離婚などの条件なしで望む性別を反映した本人証明書を発行するといったことも勧告しています。この家族を保護するという政治課題に関して須田さんお願いします。

【須田】まさに同性カップルとその子どもたちに法的な保障がないという問題を問うために、2019年2月に同性婚の訴訟を始めました。

現在は地方自治体のパートナーシップ制度が増えて、人口カバー率で5割に届きそうなくらいになっています。それは同性カップルの存在を可視化する意味はありましたが、残念ながら自治体のパートナーシップ制度は法的な権利義務を伴いません。ですから同性カップルが離婚しようと思っても、財産分与の権利が認められなかったり、相続権がなかったり、遺言で財産を承継することはできても配偶者控除が使えないなど、いろんな支障がでています。そこで、きちんと法的な保障をすべきというのが、私達が起こしている訴訟です。

また、現実に子どもたちを育てている同性カップルもたくさんいるのに、現行法では結婚している男女でしか共同親権を持てないので、戸籍上同性のカップルは、片方しか親権者になれないという問題があります。

【本多】遠藤さん、トランスジェンダーの人を含んだ家族の状況はいかがでしょうか。

【遠藤】トランスジェンダーの人の性的指向は様々ですが、例えば戸籍の性を変更してしまうと戸籍上同性のカップルになってしまって結婚できないとか、その逆で戸籍の性を変更しないと戸籍上同性なので結婚できないというように、自分の戸籍の性別の状況によって結婚できないことがあります。

【本多】性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」)は、出生時などに割り当てられた法令上の性別の取扱いを変更する要件と手続を定めています。性別の変更の問題点について遠藤さんからお願いします。

【遠藤】国内で法的に性別変更をした人は1 万人ぐらいいます。しかし、性同一性障害の診断を受けた人や受診している人は約2万人います。埼玉県の調査によれば、トランス男性とトランス女性は人口の0.05%なので、日本全国に6万人ぐらいいるとされています。ということは、現状は、法的な性別変更をしていない人の方が多いということです。

何で性別を変えない人が出ているのかというと、法律の要件が厳しいからです。

一つは子なし要件(特例法3条1項3号「現に未成年の子がいないこと」)です。子なし要件の趣旨は、未成年の子がいるケースで親が性別変更をするのは子どもの福祉に反するということのようです。しかし、法的な性別が一致しないと、残念ながら現在の社会では就職で差別されるとか、医療機関で保険証を使いにくく受診しづらいとか、様々な生活上の不利益に繋がるので、親の状況が不安定になります。それは家族にとっても不利益です。そうすると、子どもの福祉に反するというのが果たしてそうなのか。そもそも親の外見や社会的性別が変わっていくこと自体を特例法の「子なし要件」が抑止するのかといえば、そんなことはなく、法律によってもたらされるのは、親の法的性別と生活実態の乖離だけです。また、親がトランスジェンダーだったら子どもが嫌がるのかといったら、必ずしもそんなことはなくて、実際に子どもを育てている家族で、子どもがすんなり受け入れられて、仲良くやっている場合もあるわけです。子なし要件を法律で定めているのは、世界で日本だけなので、これに関して本当に合理的な理由があるのかをきちんと議論していく必要があります。

不妊要件(特例法3条1項4号「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」)も、トランス女性に精巣の摘出を課し,トランス男性に卵巣の摘出を課すものですが、この要件を撤廃すべきという意見が多いです。トランス男性は、卵巣に違和感があって摘出したいというよりは、就職差別に遭いたくないとか、女性のパートナーがいて結婚したいという理由で、法的に性別変更をするために手術を受けています。それも日本では手術する病院が少ないので、タイに行って手術する人が多い状況です。これは法律を作った当初は想定していなかったことで、人の状態に法律が合わせるのではなくて、法律の状態に人の体を合わせるというねじれ現象が生じています。これは国連でも、事実上人に断種を強いることになっているのではないかと議論されています。

【須田】子なし要件も、非婚要件(特例法3条1項2号「現に婚姻をしていないこと」)も、家族の実態を無視していると思います。

ある日突然お父さんがお母さんに変わるみたいなことを想定して要件を定めているのですが、違うんですよ。既にお母さんが2 人の家庭があって、その実態に戸籍も合わせて暮らしやすくしましょうという話です。それで傷つく子はいません。既に家族の実態があるということを理解していないから、ちぐはぐな要件になるのです。

【遠藤】そうですね。今の特例法は実態に合わない要件で性別変更を認めにくくして、結婚するために体にメスをいれるよう迫ったり、すでに結婚している人に離婚するように求めたり、子どもがいたら「子どもがかわいそう」と決めつけるなど、家族を壊しているとしか言いようがありません。

【須田】実際には多数の性的マイノリティの方が子どもを育てていたり、法律上の親族関係のない人を介護していたりということが生じています。

実際そういうニーズがある中で、育児も介護も休暇が取れないと難しいので、育児介護休業法があるわけですが、それが適用されないというのは就業継続の面から問題です。育児休業は、労働者と法律上の親子関係があることが条件になっています。配偶者の介護に関しても、介護休業は内縁関係の配偶者を含むことになっているのですが、これが同性のパートナーだったら難しいということで、抜本的な法律が必要です。

社会保険に関しても、同居している同性カップルを、自分の健康保険の扶養に入れられない不利益を問題にする訴訟が起きています。内縁の配偶者が社会保険の対象になるのに、同居している同性カップルがそこに入らないという問題があります。



▲このページのトップへ