弁政連ニュース

特集〈座談会〉

子どもたちを虐待から守るために
〜改正児童福祉法・児童虐待防止法のこれから〜(2/6)

深刻な児童虐待の原因

【石井】厚生労働省(以下「厚労省」)のデータによりますと、児童虐待防止法のできた1999年に1万1600件だった児童虐待相談の対応件数が、2016年には約10倍の12万2500件に増えています。死亡事件は心中も含めて年間80件前後で推移しています。この間2016年、2017年、2019年と相次いで児童福祉法、児童虐待防止法の改正を行ってきたわけですが、最近も死亡事件が相次いでいます。奥山さんは、この状況をどう評価されていますか。

【奥山】一つ挙げたいのは、児童虐待の対応件数は非常に増えていますが、死亡事例はそれほど増えていません。ただ日本はチャイルド・デス・レビュー(以下「CDR」*)をやっていないので、実際には暗数があると考えられます。

この児童虐待相談の対応件数というのは、児相が受けた相談件数ですが、それに市町村への通告件数が加わりますので、実際の虐待の件数は倍近くになると思います。児相への通告に関しては、警察からのDV目撃の通告として心理的虐待数が増えているために、急速に増加した側面があります。ですからこの数字だけで原因を考えるのは、なかなか難しいものがあると思います。ただ死亡事例が減っているかといいますと、減っているとは言えない事実はあります。

もう一つ言っておかなければならないのは、2016年の児童福祉法改正は、話題になった死亡事例があって改正したわけではありません。もともと何とかしなければならない状態だったというのがベースにあって、法改正して、それが機能したとは言えないうちに社会の注目を浴びるような死亡事例が立て続けに起きました。

私は30年近く虐待の問題に関わってきて、児童福祉の分野はイノベーションが起きにくいと思います。変わるのが遅く、現実に追い付か、みんな後手に回っているという印象です。もっと抜本的に改革しないと、死亡事例を減らすのは難しいという不安を持っています。

【石井】東さんは、虐待の件数、特に死亡の件数が減らない原因をどうお考えですか。

【東】死亡事例が起きてしまう原因としては、乳幼児について言えば、孤立している家庭で起きている印象があります。実家の助けが得られない、親のパーソナリティが非常に弱い、親自身の育ちにおいて誰かに頼った経験が乏しくて周囲に助けてもらえることを知らない、等の事情が見られるように思います。周囲に弱みを見せてはならないと思っている方は、こちらがどんなに援助の手を差し伸べても大丈夫ですと断ったりしますので、孤立家庭にどのように手当てをしていくのかが課題だと思います。

通告件数に関して言えば、市民からの通告が増加していると思います。

【石井】そういう意味では件数の増加というのは悪いことではないということでしょうか。

【奥山】通告件数が増えることは悪いことではないのですけど、今は逆転現象が起きているのが問題です。市町村への通告は、関連機関からの通告なので重症なケースが通告されます。これに対して、児相への通告は、近隣通告とか警察からの面前DVが多く、本来は支援ベースで入った方がいいような通告が増えています。その中に重症なケースが入ってくるので、大量の砂の中から何かを探すようなもので、児相の意識が重症なケースに向きにくくなっているのではないかと思います。本来、窓口を一つにして支援ベースで入るケースなのか重症のケースなのかをきちんと振り分けて対応すべきで、全て児相が48時間以内にやるというのはある意味無駄なエネルギーも使いますし、感覚も麻痺しがちになります。その対応を早く始めなければならないと考えております。

【磯谷】さきほどの児童虐待相談の対応件数は1990年には1000件ぐらいだったので、磯谷そこを起点にすると2016年には100倍超くらいになっています。これは児童虐待の実数が上がっているうえ、社会的に児童虐待への認知度が高まり、周りの人たちが児童虐待に気づくようになったこと、さらに近年は警察からのDV通告が急増し、件数を押し上げているという状況なのだろうと思います。

さきほど死亡事例の話がありましたけど、数的には0歳0か月と非常に幼いお子さんの死亡が多くて、いわゆる周産期のサポートがカギになると思います。東さんがおっしゃったように、家族が地域から孤立しているケースや、親の精神的な疾患が絡んでいるケースなどもあり、本当に様々なケースがありますが、それらに関しては国の死亡事例等の検証で明らかになってきているので、対策を徹底する必要があると思います。

【奥山】確かに死亡事例の約4割が0歳児ですので、そこにばかり注目してきました。しかし、死亡事例検証の10年間のデータを分析してみると、0歳代の事例は「泣き声にいら立って」というケースが多いのですが、1歳以上、特に3歳以上の事例は親等が「しつけのつもり」というのが多い。最近の事例も、そうですよね。1歳以上で「しつけのつもり」を動機にしたケースはその他の死亡事例に比べて、若年出産、DV、養父・継父が加害者、転居が有意に多いのです。そういうデータは、CDRをやっているわけではないので全数ではないですけど、きちんと分析して専門性の向上に活かしていかなければならないのです。


*CDR 子どもの死亡登録・検証制度。予防可能な子どもの死亡を減らす目的で、多職種専門家が連携して系統的に死因調査を実施して登録・検証し、効果的な予防策を講じて介入を行おうとする制度。



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