弁政連ニュース

特集〈座談会〉

公文書管理の現状と課題(5/5)

「公文書管理庁」の創設を

【柳楽】公文書管理が適切に行われるように、仕組みを変えるべき点があるとすればどのようなことでしょうか。

【出口】さきほどの公文書館を充実させることもそうなのですが、出口あと重要なのは文書管理者ですね。

2017年に改正された内閣府のガイドラインでは、各課の課長補佐級の方に文書管理を課内管理していただく責任者のポストを新たに作りました。公文書管理は自治体でも行政でもそうですけど、現場のレベルにいかに浸透するか。公文書管理法自体はかなり理念としてはいいことが書かれていると、その理念をどうやって現場レベルの職員の人に理解していただけるか実行していただけるかということについてはやっぱり研修が何においても重要であるということでその研修の充実が大事であるということと、現場レベルで育てるための各課の文書管理を担当する人をおきましょうという体制は新しいガイドラインの目玉の一つだと思いますね。

【柳楽】アーキビストの養成が急務だという記事もありましたね。

【三宅】アーキビストは一旦保存したものの中から一定の保存期間経過後に大事な文書だけを残してそれ以外は廃棄するという選別をする人のことで、行政の現場で日々生まれてくる電子データなり紙の文書をどう管理するかはレコードマネージャーの話です。今急務なのは、例えば財務省の理財局長が「契約が成立したから経緯に関するものは全部廃棄せよ」と言っても「局長それはダメです」という人が三人くらいいて局長を止める、そういう記録に対する思い入れがある人をたくさん作らないと組織内での適切な文書管理はなかなか期待できない。必要なのは罰則だけではなくて、公文書管理に造詣の深い役人の省庁横断的な組織体系だと思うのです。

【森田】ある意味そういう感性というのが必要で、最近裁判になった優生保護法に基づく強制不妊手術の問題。あれについて例えば神奈川県の公文書館には当時の文書が残っています。まだ問題にはなっていないが捨てちゃまずいと判断して当時の文書を取っておいたのです。過去の文書というのはそういう時に役に立つのです。ただ、全国的に見るとそういう記録が残っていないというところが非常に多いわけですが、そこはやっぱりアーキビストのセンスが将来のある時点で生きるということですよね。

【出口】公文書管理法ができた当時から日弁連がずっと訴えてきているのは、公文書管理というのは国のあらゆる事務の基礎をなす重要なものだからそこは各省だけでやるのではなくて、公文書管理庁を作ってそこに権限をもたせて日々の各省の運用についてチェックさせるべきだということです。諸外国でも公文書管理庁のような独立の行政機関を設置して日々公文書管理の運用をチェックしているということからも日本にも是非そういうところが必要だということを日弁連は訴え続けています。

【三宅】アメリカにはNARA(National Archives and Records Administration;国立公文書記録管理局)というのがあって、これは独立の機関として設計されています。やっぱり行政の縦割りの各省庁に公文書管理官がいたとしても組織の中のことしか考えない人たちではダメなわけで、歴史とかの視点を持って現場の文書をどう残すのかということを本気でどの省庁においても同じようにやれるようにするには文書管理者のネットワークを作って横断的に束ねる組織が必要です。これはぜひ国会議員の先生にわかってほしいと思うところです。

【出口】本当は外交文書もきちんと保存しておけば日本の外交戦略にとっても有効だということなのですよね。たとえば領土問題。竹島とか北方四島が日本の領土だということを国際的に主張していくためにも、その経過を文書として確実に保管しておく必要があると。国際司法裁判所とかに日本の問題が持ち込まれたときに、日本国としてきちんと記録を残しておいて必要な主張ができると。国の外交戦略の面でも公文書の管理はすごく重要だと思います。日本では30年経つと公文書館にも移管されないで気がついたら廃棄されている。最近特定秘密に指定されたものがあれば30年にも満たないうちに廃棄ですよね。全く日の目を浴びないまま、何が秘密かわからないまま廃棄されていたと。

【柳楽】それだと国家として意思決定の過程が事後的に検証できないですよね。国民の共有の知的資源が保存されないまま歴史が流れていく。それでは国家として成熟しないですよね。

国会議員へのメッセージ

【柳楽】最後に国会議員の先生方へのメッセージをお願いします。

【出口】国会でも、与党の議員と野党の議員とでは役所から見せてもらえる資料の範囲が違うと聞くことがありますけれども、役所の都合で誰にどういうものを見せるか担当官庁が選べるというのが現状です。公文書管理が実務レベルまで浸透すれば、こういう会議があればこういう議事録を作っているはずだとか、こういう意思決定をしていればこういう文書があるはずだというイメージがその省庁毎に具体的に持てるようになる。今は、あるはずの文書が個人メモのレベルでとどまっていることで問題になっていますけど、文書の作成から書式レベルまで事務のあり方を見直していくことは、かなり細かい作業になりますけれども、行政の意思形成過程を事後的に検証できるようにするためにはとても重要なことだと思います。

【森田】公文書管理も情報公開もそうですけど、内部の統制に任せておいただけではなかなかきちんとしたものが出てこない。それは外からのリーダーシップ、政治レベルでのリーダーシップが必要です。情報公開制度ももともと自治体の中で政治的なリーダーシップを取った人たちがいて作られてきたし、法律の制定までもっていけたのも、途中で政権交代がありながらも、でも情報公開制度は作らなければならないのだという国会議員の人たちが最終的にそういう判断をしてでき上がったわけです。これから公文書管理を進めていく上で、ぜひ政治のリーダーシップを発揮していただきたいと思います。

【三宅】上川法務大臣が初代の公文書管理担当大臣であったことから、今般、法務省の中に刑事訴訟記録の保存管理に対するあり方に関するワーキンググループを作られたというのはまさにそのリーダーシップの一つだと思います。昨今成立した共謀罪についても廃止するべきという意見もありますが、現に今ある法律として、戦前の治安維持法のように今から検証しようとしても記録がないとか、そういうような時代状況にしてはいけないわけで、公文書管理法では刑事記録は適用外なのですが、そのあたりの視点も持ちながら検討してほしいと思います。あとは研修です。公務員の方も政治家の方も、公文書管理法について研修を受けていただいて、これからの日本社会にとって国民共有の知的資源として現在のみならず将来の国民のために説明責任を果たすんだという意識をぜひ持っていただいて、役所の中で文書の改ざんや書き換えはダメですよという自浄作用が働くような実践的な研修に裏打ちされた組織にしていってほしいと思います。

【柳楽】この問題は、与党・野党の対立軸を超えて、この国の民主主義を成熟させていくのだという共通の理解をもって取り組んでいただきたいと思います。今日はありがとうございました。


於霞が関弁護士会館

(平成30年4月26日 於霞が関弁護士会館)


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