弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

「ビジネスと人権」を日本の成長戦略に
~日本企業にフィットしたスタンダード作りを~(3/6)

人権に無頓着だと取引先に選ばれない時代

【高橋】2014年にEUで非財務情報開示指令、2015年に英国現代奴隷法が採択されたのですけど、さらに最近の流れとしては、単に情報開示だけではなくて人権デュー・ディリジェンスを義務付けるという法律が2017年の2月にフランスで採択されました。オランダでも児童労働に関するデュー・ディリを義務付けるような法律も下院を通って上院で審議されているので、いま、こういう形で人権デュー・ディリというプロセスを義務付けることで、企業の法的な注意義務の判断材料になるのではということも議論されている状況です。

【柳楽】人権デュー・ディリといえば、日弁連が「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)」を2015年1月に公表していますが、企業のデュー・ディリの現場にはどのような変化があったでしょうか。

【三村】2000年代に入ってから、三村アメリカ系の企業で贈収賄防止に関するデュー・ディリジェンスが日本でも導入され始めました。私は2005年から米系企業に入ったのですが、そこは、その頃まだ日本では殆ど行われていなかったデュー・ディリジェンスを初期に取り入れた企業でした。それを日本で浸透させることことには大変苦労しまして、取引先からは「なんでこんなことをやらされる」とか、「こんなことをやらされるなら取引できない」と言われるくらいの抵抗がありました。それから5年くらい経って、贈収賄に関するデュー・ディリジェンスは、だいぶ浸透してきて、文句を言う会社も減ってきたかなと感じました。ちょうどその頃、2010年にイギリスの贈収賄防止法が制定されまして、ヨーロッパの会社も贈収賄のデュー・ディリジェンスに力を入れるようになりました。さらに欧米系の大企業では、取引先企業をコントロールするというルールが徐々に浸透してきて、贈収賄関係のデュー・ディリジェンスに加えて、人権と言われている労働、環境が加わったデュー・ディリジェンスを行うようになってきたという流れかと思います。

現在私が所属している会社は、製薬企業の中ではコンプライアンスに関して先駆的なことを行う会社なのですが、それでもこのような労働、環境を含めたデュー・ディリジェンスを行うようになったのは2~3年前です。これを全世界でやっていくわけです。やり始めると様々な国で大きな抵抗がありました。取引先がたくさんある地域で始めるのは難しいので、最初は南米など、比較的取引先が少ない国から取引先のデュー・ディリジェンスをはじめて、それでも大きな抵抗を受けながら徐々に定着していっている感じです。日本ではまさに今年から本格導入を始めましたが、大変な状況です。こちらから取引先を評価するわけですよね。評価して問題が見つかると「問題があるので直して行きましょう」というわけですが、取引先企業からすれば余計なお世話だということで、「なんでおたくと取引をするためにこんな面倒なことをやらなければならないんだ」と言われてしまうのが現状だと思います。これは、必ずしも世界中で素晴らしく統制が取れていて、日本だけが突出して遅れているということではないと思います。ただ、世界中で、大企業がその取引先を選定する時代になってきているといえます。日本は中小企業がとても多いわけで、この中小企業を育てていくという観点は非常に重要だと思うのですが、人権とか贈収賄防止とかの問題にコストをかけていない、あるいはかけられない会社は、取引先として選定されない時代になってきているというのは、企業にいて強く実感しているところです。

【柳楽】大企業にとっては、サプライチェーン上のどこかで人権問題が起こっているというニュースが出ると不買運動が巻き起こったりして、そういうレピュテーションリスクがあるわけですけれども、では大企業だけが意識していればいいのかというと、そうではなくて、その大企業の取引先として認めてもらうために、サプライチェーンの先にある中小企業も、きちんと人権問題に対する取組をしなければならないと。そういうことになれば、これはもう全部の企業に関係してくる話ですよね。

【田瀬】そのとおりです。三村さんの会社なんかもそうで、グローバルにつながっている会社さんはとても意識が高い会社が多いと思うのですけど、残念ながら私が見ていて、特に日本で大きくなってきた会社で人権方針を持っている、ないしはサプライヤーに対する人権デュー・ディリのプロセスを持っていて、評価と改善までのプロセスを回せる企業は殆どありません。例えば、国内大手の自動車メーカーの多くのサプライチェーンはなんと10次以上あるそうなのですが、今まで「人権」という言葉は使ってきていないんです。でも伝え聞くところによると、ついに最大手を含めた自動車業界が人権に関して動き出した。これでどうなるかというと、彼らが人権デュー・ディリを始めると、サプライチェーンのどこまで波及するかはわかりませんが、3次、4次くらいまでの日本の会社はもう確実に影響を受けるわけです。その影響を巻き起こすのが怖かったので今まで使わなかった。わかっていたけど大丈夫だろうと思っていたのが、そろそろまずいぞと。それがアパレルでも起きている。商社でも起きている。

人材派遣業でも起きている。そういう状況なんですけど、現実はまだ追いついていないというのが今の私の実感です。



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