弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

日弁連の国際戦略(4/5)

立ち遅れる日本の国際仲裁制度

【斎藤】司法制度作りの面で言うと国際仲裁制度の確立・拡充などですかね。

【大谷】日本仲裁協会と日弁連が連携しながら、今、香港、シンガポールや韓国等、アジアの各国で国際仲裁機関の招致合戦が起きている状況の中で、日本における国際仲裁機関を強化すべきという提案を進めています。国際仲裁は今後弁護士にとって国際的な業務分野として拡大することが予想される分野です。また国際調停も近年注目を浴びています。ビジネス、家事事件、一般事件の分野でも、コストがかかる国際的な法律紛争においては、仲裁や調停を選択して解決を図るというのが世界的な潮流になっている中で日本の弁護士が乗り遅れないようにしなければなりません。

【斎藤】国際仲裁の具体的な件数を見ていくと香港、シンガポール、韓国にくらべると日本はかなり少ないと聞いていますが、具体的にはどの位差があるのですか。

【大谷】10倍ぐらいの差になっています。例えばアジアの各国の国際仲裁の新規受理件数でいいますと2015年のデータですが、香港が214件、シンガポールが228件、韓国の商事仲裁が74件とされています。日本にある仲裁機関として一般社団法人日本商事仲裁協会があるのですが、新規受理件数がここ5年間で年間20件前後、つまり、アジアの近隣諸国と比べて10倍、20倍の開きがあります。

【三宅】2015年に日弁連と大韓弁協の交流の中で韓国の大韓商事仲裁院を見させていただいたのですけど、そんな大きな建物ではない。一つのビルの中にあって仲裁人を韓国の人だけではなく英米系の弁護士なんかが仲裁に関与していて、先ほどの数字413件ありますよね。国際的な紛争についてそんな大がかりのものを作らなくてもこれぐらいの仕事量があるのかと。国際的な仲裁の中で位置づけなんてものはずっと前から言われていますけど、実際にいざ作るとなると全然進んでいないので日本は完全に立ち遅れているのではないかなと思います。可及的速やかに行動しないといけないレベルではないかと。日弁連の国際戦略の中でも最重要課題じゃないか、まさに弁政連に支えていただいて各方面に積極的に訴えていく一番重要なもので、国際的な紛争解決モデルができると、弁護士の仕事のあり方もかなり変わってくるし、国内における紛争解決のかなり影響を受けると思うので、一丁目一番地の重要課題だという気がしています。

国際的な専門知識を備えた弁護士の養成

【斎藤】この課題については次々回の座談会でさらに深めたいと思います。日本の企業が日本で国際的な紛争の解決を求める場がない。これは大変な問題ですね。この関係では具体的な国際化の中で生ずる法的専門知識を備えた弁護士を養成することが不可欠ですね。その活動についてはどうでしょう。

【大谷】大谷一つは、先程お話した国際司法支援活動。国際司法支援に携わるにも一定の専門知識が必要なのでそうした弁護士を養成するために国際司法支援連続講座が実施されています。それにヒントを得て最近特に力を入れた方がいいと認識された分野が国際公法です。例えば近年国際司法裁判所に日本が訴えられて、残念ながら敗訴した捕鯨事件があり、注目を集めました。他にも、環境の分野、仲裁も国が当事者になる場合があるなど、国際公法というのは非常に重要な分野でありながら日本の弁護士はこの分野について知見を持っている方が非常に少ないです。現在国際公法は司法試験の選択科目の一つになっていますが、合格者の中に占める国際公法選択者は1パーセント弱、10名台という少なさ。政府の方は捕鯨裁判がきっかけで外務省には国際法局の中に国際裁判対策室を設け、法務省も国が当事者になるような裁判のための訟務部を局に格上げして国際裁判についても対応を強化していますが、自民党の中からもこうした国際裁判に実務法曹がかかわるべきではないかというご意見も聞こえてくるところです。しかし肝心の弁護士の方にそうした専門知識を備えた弁護士がほとんどいません。私たちも非常に重要だと思っていて、そうした弁護士を養成するために法曹養成制度の中でどのようにして国際公法を重要視していくか、まず手始めに日弁連国際業務推進センターで昨年国際公法実務研修連続講座という10回の講座を企画しまして、外務省と国際法学会にご協力を得て、国際司法裁判所、国際海洋法裁判所、国際刑事裁判所、WTOの理論と実務について、研究者やその機関で実際に働いていらっしゃる方、外務省の方をお呼びして実務的な講義をしていただきました。受講者は全国から40名弱で、国際公法の分野に関心を持っている弁護士がこんなにいたのかと手応えを感じています。受講者にも好評でして、今回の経験を今後の取組みに生かしていきたいと思っています。

【斎藤】捕鯨裁判の日本政府代理人はどういう人で したか。

【大谷】日本政府の弁護団は、基本的に、研究者・学者、外務省の方たちで構成されていたのではないかと思います。日本の実務法曹は入っていません。対してオーストラリアの方は、実務法曹が多数入っていたとお聞きしました。では、日本の弁護士が入っていたら良かったかと言いますと、そんな簡単な話ではないのですけど、裁判ですから訴訟戦略とか証拠に基づく事実の認定といった部分では、実務法曹の経験が役に立つことがあるのではないかという意見もあります。しかし、いかんせん、現在は、こうした国際裁判の実務に参加できる素養・知見を持った弁護士がいないので、今急いで始めたということです。

【山神】人材養成で補足させていただきますと、日弁連では1997年から公益活動に貢献する弁護士のためのロースクール推薦留学を行っています。これは、公益活動に取り組んできた会員のために、さらに海外で研究を深めるチャンスを日弁連が提供するものです。公益活動には、子ども・高齢者・障がい者の権利や、男女共同参画、消費者問題、環境問題といった社会の諸課題や、刑事司法改革、国際人権、国際司法支援など幅広い活動を含まれ、これまでに50名余りが留学しております。

【三宅】実は法曹養成制度全般にもかかわってくるかと思うのですが、国際公法なんかで活動する人というのは本来法科大学院で講座を学んでそれを自分の将来に生かしたいと。大谷先生も確かニューヨークのロースクールの国連の活動に関するゼミで勉強してそれが影響して、ご自身の方向付けに影響されたということですけど、要するに今までの日本の法科大学院ができる前の法学部教育と研修所教育の中でまったく欠けていたので、そこを日弁連がロースクールの教育の中で求めるなど、一弁連独自の留学制度で補っていたわけですけど、今後は法科大学院の中にしっかりと講座を作って十分に学んで、それで国際的な方向付けをしていくことを、法学教育全般に視野を広げて考えていきたい問題だと思います。



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