弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

司法修習生に対する
経済的支援(3/6)


【柳楽】社会人経験者の志願者が当初と比べて大きく減っています。すでに収入のある社会人が投ずる時間的、経済的コストに対してのリターンが見合っていないのではないかという認識が広がってきた。そのリスクとコストの部分に、法科大学院の授業料の話と、貸与制があると思います。

【中村】司法制度改革審議会で議論されていた当時は、これからの日本は、事前規制型社会から事後救済型社会へ転換をしていくのだと考えられていました。そうなると事後救済ですからいろんな紛争が出てくる。その中で法律家、法曹が担わなければならない場面というのはいろいろ出てくるのだと言われていたわけです。それが必ずしもそういう社会にならなかったということはあります。御紹介のとおり、確かにいろいろな方々が法曹を目指していました。例えば某企業の知財部にいた方、アナウンサーの方など、多様な方々が法曹を目指していました。ところが今は活動領域が思ったほどなかったり、活動領域の開拓に時間がかかっているということもあって、社会人経験者が減少しています。これは非常に問題だと思います。

【柳楽】もともと司法を強くするという理念で始まったものなのに、法学部を受ける人も減っているというデータも出ています。

【宮﨑】司法制度改革を実現した頃はこれからのグローバリゼーションにどうやって立ち向かっていくかということを様々な業界が考えて、改革ブームが起きたわけですね。その時に司法の領域でも、いわゆるリーガルプロテクトの在り方も事後救済型になるから、プレイヤーが必要だろう、じゃあ弁護士の数が足りないじゃないかという議論が起こった。その当時は司法試験合格者が年間500人で、司法アクセスも容易ではなかったし、法曹業界に対して、既得権益を守って高収入を得ているという社会的なイメージがないわけではなかった。その中でどうやって司法や法曹が活動領域を拡大してグローバル化していく社会に貢献していくかという議論の中で、私は日本人の気質や日本社会の本質への配慮のようなものを捨象して飛ばしすぎたかなと思うところがあります。規制の在り方が変わっても紛争が多発するような社会にはならない国民性ではないかと思います。

【柳楽】貸与制によってもたらされたものとして、修習の現場やロースクールの現場でどんなことが起こっていますか。

【萱野】まず大学生から、やはり経済的な負担萱野がすごく重いということを聞きます。時間的・経済的な負担に耐えられない。修習生は本当に1000万を超す借金を負っている人が珍しくないような状態で、さらに弁護士人口が増えたことで弁護士を取り巻く状況も変わって将来も非常に不透明だというところで、こんな状況では目指せないという声が本当に多いです。それはもう数字にも表れているとおりではないかなと思います。また、司法試験に合格したけれど、司法修習に行かない修習辞退者も毎年出ています。修習辞退者は昔からいたわけですが、かつては公務員になりたいけどお試しで司法試験を受けるという人などがいたと思いますが、今は原則的にロースクールを出て、または予備試験に合格して、司法試験に合格しているわけで、お試しで司法試験を受けられるような環境になく、修習を辞退する重みというのは、昔とは全然違うのではないかと思います。数はそんなに多くないですが、家庭の経済的な事情などで、これ以上借金をできないということで辞退する人も実際にいます。後は修習生になってからのことですが、貸与制なのでキャッシュとしてはお金が入ってくるのですが、借金なので支出をすることに対する躊躇というのが目立つようになっています。勉強のための書籍代を節約せざるを得ないとか、学習会への参加が減ってしまうということがあります。副次的なことなのですが、無収入だから修習先で住居を借りることができなかったり、保育園に入れたくても学生と同じ順位になってしまってなかなか入れられないなど、このような無給の人というのが国全体を見てもかなりイレギュラーな存在なので、そこで予想できないような弊害も生じています。

【柳楽】修習生は修習専念義務を課せられているのに、そういう状態ですからね。給費制だった頃は、司法試験に合格さえすれば給費をもらって勉強ができ、将来も約束されている一発逆転の道でもあったわけですが、今はそういう感じではないですね。

【萱野】私も合格した時にすぐ、貸与を受けるための保証人が二人必要だということで悩みました。保証人は一定程度の収入が二人ともなければならないということで、うちは父親が一人目の保証人になってくれましたが、母は収入がそんなになかったので、二人目の保証人を誰にお願いしようかと困りました。結局遠いおじさんに頭を下げに行ったのが非常に印象的で、試験に受かってうれしいということはあるのですが、もろ手を挙げて喜んでという状況ではなかったなと思います。



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