弁政連ニュース

特集〈座談会〉

弁護士による中小企業支援
-現状と課題-(4/5)

中小企業の海外進出支援

【伊藤】これまで企業のライフサイクルごとの支援のお話を伺いましたが、別の視点として、時代の流れに応じて弁護士の中小企業支援のあり方が進化している面もあると思います。近年中小企業の海外展開が盛んになっていますが、それに対して弁護士はどのような支援をしているのでしょうか。

【土森】海外進出や国際貿易取引などの海外展開においては、言葉の問題や商習慣の違いによって誤解が生じやすいほか、法制度の違いなどにより、国内の場合以上にトラブルが生じやすいです。

日本の中小企業は、弁護士に依頼するのは裁判のときというイメージが強いですが、海外で裁判をするには現地弁護士に依頼しなければなりません。そうすると海外の弁護士とのコミュニケーションは外国語になりますし、裁判に提出する資料の翻訳も必要になります。海外での裁判になったら、あっという間に千万円単位のコストになることもあり、結局は費用対効果を考えて泣き寝入りせざるを得ないということもよくあります。海外での紛争経験がないと、こういう事情はなかなかわかりませんし、経験や知識を持っている弁護士との接点が不足していると思われます。

このようなアクセス障害を解消するために、日弁連は、海外進出や国際貿易取引における法務面での支援を要する中小企業に対して、海外展開に関する経験と知見を有する弁護士を紹介する制度を、2012年5月からパイロット事業として運営してきております。

この制度では、一定の連携団体(ジェトロ、東京商工会議所、日本政策金融公庫、信金中央金庫、国際協力銀行など)から本制度の紹介を受けた中小企業から申込みがなされると、渉外業務の実績のある支援弁護士を紹介し、支援弁護士は一定の基礎的サービスを統一的な報酬形態で提供します。具体的には、初回相談料が30分間無料で、それ以降は実費を除き10時間までは30分ごとに一律税抜1万円という統一的な報酬形態でやっています。当初は紹介可能な弁護士は東京、神奈川、愛知、大阪、福岡という五つの地域に事務所がある弁護士に限られていたのですが、その後札幌、宮城、新潟、京都、広島、香川の六つの地域が加わって、現在は11の地域に事務所がある弁護士を紹介可能となりました。高等裁判所所在地はすべてカバーできましたので、今年4月からはパイロット事業の段階を終えて、日弁連で正規事業化されています。

【髙井】どのくらいの規模の中小企業が利用しているのでしょうか。

【土森】かなり幅がありまして、小さい企業ですと、従業員が一人とか二人でも海外との取引が出てくることもあり、その際に契約書を見てほしいという相談があります。日本国内にいながら販路開拓のために海外企業と取引するということもありますし、海外に生産委託したいということもあります。取引の際には契約書が出てきますし、契約書を見ていく中で、様々なリスクに気づくこともあります。そういう意味では、会社の規模にかかわらず相談のニーズはあります。

女性の起業支援

【伊藤】今、政府では女性の活躍推進が経済成長の柱と位置づけられていますが、中小企業センターでは、女性の起業支援にも力を入れているようですね。

【八掛】おっしゃる通りです。国の政策だからというだけではなくて、女性特有の問題点があると考えて支援をしております。女性で企業に勤めていた方が、出産または親族の介護などで会社を辞めてしまうと、その後に会社に戻ろうとしても簡単には戻れないという問題があります。そのような中で、フレキシブルな働き方ができるということで起業を選ぶ女性もいます。優秀な女性が家庭に入ったまま経済活動をしないのは社会的にも損失ですので、そのような観点からも女性起業家を支援する必要があります。

また、例えば一回家庭に入った女性が、赤ちゃんと二人きりの生活をしてみて初めて「こんなことが不便だ」と気がついて、それを解決するために事業を始めるというようなケースも多いと聞きます。このように子育てなど会社勤め以外の経験を経て現実のニーズにフィットするビジネスを提供することができるのは女性起業家の強みだと思います。ただ、今申し上げました女性起業家の強みは弱みにも繋がります。例えば、会社勤めの経験が少ないことで、人脈がない、経済的な基盤がない、会社組織についての知識が少ないということはあるかもしれません。もちろん全ての女性起業家がそうだというわけではありませんが、そういう女性起業家の特有の弱みのようなところは積極的に支援していく必要があると思います。

中小企業センターでは、2014年度から日本政策投資銀行(DBJ)と連携して、女性起業家に会社経営に必要な法的知識をもっていただく目的で、「女性起業家のためのリーガル実践講座」と題したセミナーを実施しています。2015年度はセミナーに加え、無料法律相談会も開催しました。このセミナーは当初東京のみで行われていましたが、今年1 月には福岡県弁護士会との共催で、福岡でも開催しました。今後も同様のセミナーを全国で展開していければと思っています。

中小企業センターのコンセプト

【伊藤】ここまで具体的な話を伺って、弁護士の中小企業支援がきめ細やかになされていることがわかりました。ここで中小企業センターのコンセプトをご紹介いただけますか。

【髙井】その名前の通り日弁連で中小企業の問題を一手に扱って、対外的にアピールする活動をしています。弁護士と中小企業との距離を埋めること、中小企業に関する専門的な問題に対応していくことを目的として、先ほど述べたようなきめ細かい取組をしています。中小企業の支援は、今の日本における大きな政治課題ですので、日弁連としてもきちんと対応していくということで、中小企業庁・金融庁など各役所、支援団体、金融機関、他の士業とも連携しながら活動しています。

中小企業と弁護士との距離を埋めるために、今、中小企業向けのアンケートを企画しています。日弁連で2006年・2007年にアンケートを実施した結果、中小企業は法的問題を抱えていながら、それをあまり認識しておらず、そのため弁護士を必要としていないと回答する傾向にあることがわかりました。弁護士を必要としていないと回答しながら、実際には様々な問題を抱えている、そのギャップを埋める必要があります。

今回のアンケートでは、何が問題なのかをもう少し明確に浮彫りにして、中小企業に対する弁護士の支援のパッケージを確立できればと考えながらアンケートを作っているところです。一般的には弁護士は敷居が高いとか、費用が分かりにくいという声が聞こえますので、我々がどういう形で関わることでそのようなアクセス障害がなくなるのかを検討していきたいと思います。

弁護士へのアクセス~諸団体との連携、ひまわりほっとダイヤル

【伊藤】アクセス障害という話が出ましたが、本来なら弁護士はもっと中小企業の支援ができるのに、活用されきれてない部分があると思います。そういう中で中小企業センターはどのような取組をしているのでしょうか。

【堂野】いろいろな取組がありますが、大きな柱として、中小企業を取り巻く商工会議所、金融機関といった関連団体や士業団体との交流を地道に進めてきました。これは大きく二つの面に分かれます。

一つは、地域単位での交流の支援です。例えば、中小企業センターには各地の弁護士会から委員が派遣されていますが、各地の委員が中心となって、センターからも委員を派遣し、地域単位での関連団体との意見交換会を各地で実施しています。これをきっかけに関連団体の方々と弁護士がお互い顔の見える関係になっています。それによってその後の様々な提携の展開がスムーズに進むという話もよく聞きます。

各地域で様々な取組がなされているので、そこから同種の取組が横に展開していくこともあります。例えば、日本政策金融公庫が融資先にDMを送って周知をし、セミナーの講師は弁護士が務め、その後ワークショップ等により個別に交流を深める企画を、東京で定期的に行っています。この企画は、5年位前に福岡県で同種の企画が開催され、とても好評であったことがきっかけです。このような横の展開により、顔が見えない、敷居が高いという課題の克服を進めています。

二つめは、もう少し広い視野で、例えば中小企業庁と中小企業センターの間では、オフィシャルな場も非公式な場も含めて、小まめに意見交換を続けて連携を深めています。中小企業庁からは政策を立案する上で現場の声として弁護士の意見を求められますし、弁護士会も様々なお話をさせていただいて、「ひまわりほっとダイヤル」の広報などで中小企業庁にご協力いただいています。中小企業庁と日弁連との共同名義で、事業再生支援や東日本大震災の復興支援について共同コミュニケを何度も発表してきています。これによって、関連団体の方々にも弁護士会の取組を周知できるという効果にもつながっています。そういう国家的な広い視野でも提携を深めています。

その中で、最近、日弁連の中小企業センターがイニシアティブを取って各関連団体に呼びかけて意見交換や情報交換する場を作る取組もしています。典型的には先ほどご説明した事業再生の分野で、例えば中小企業庁、金融庁、金融機関、信用保証協会、士業団体といった事業再生に関わるプレイヤー達が一堂に会したオールジャパンという形のシンポジウムを何回も開いています。事業再生は、皆さん必要なことだと認識されておられるのですが、債務免除となると金融機関は負担を強いられるということもあるので、ややもすると先延ばしになりがちな面があります。そういう中で、弁護士会から音頭を取ることで流れを作っていくように取り組んでおります。

【髙井】中小企業が困ったことがあるけれども、どの弁護士に相談していいのかわからないので弁護士会に問い合わせる、という事態にきちんと対応できるように、中小企業センターでは、「ひまわりほっとダイヤル」を開設して、中小企業問題に取り組む弁護士の相談を受けられるようにしています。

【堂野】「ひまわりほっとダイヤル」は、全国共通ダイヤルで、例えば沖縄の方が電話すれば沖縄弁護士会に自動転送されるように、電話をした地域の弁護士会に通じます。そこで、弁護士会から、相談担当弁護士に担当を割り振って、その弁護士から相談者に折り返しの電話をして、アポイントを調整することになっています。一部の地域を除いて初回面談相談30分間無料を実施中で、なるべく気軽にご相談いただけるようにしています。


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