弁政連ニュース

特集〈座談会〉

弁護士による中小企業支援
-現状と課題-(3/5)

拡大期における支援

【土森】企業の拡大期では、M&Aや業務提携などがあります。

5年、10年前は、M&Aというと大企業の話というイメージでしたが、最近は中小企業でも事業承継などで、M&Aがよく活用されています。企業の拡大期の場面でのM&Aは買う側の立場が中心でしょうが、これまでM&Aで会社を買うことを考えたこともない会社でも、同業他社から「廃業するけど後継者がいないから買ってほしい」という話が出ることもあります。

中小企業のM&Aの場合、仲介業者が入って取り仕切ることが多いのですが、仲介だと成約すれば双方から報酬をもらう方式のことも多く、経営者としては本当に自分の利益を見てくれているのか不安なこともあると思います。それに対して、弁護士は、きちんと自分の味方としてアドバイスしてくれるという安心感があると思います。

中小企業がその拡大期にM&Aや業務提携を行う場合、慣れていない会社がほとんどですので、法務面に限らずビジネス上の留意点や進め方を含め、一つ一つ寄り添ってアドバイスしていくことが重要です。

引継期における支援 ― 事業承継

【伊藤】企業の「引継期」には事業承継と事業再生が重要なテーマになりますが、まず事業承継における弁護士の支援をご紹介いただけますか。

【髙井】事業承継というのは、跡取りの問題です。最近の統計では中小企業髙井の経営者の平均年齢は約60歳となっており、これから10年間で半数くらいの中小企業が事業承継をすることになるのではないかと言われています。

ただ親族の後継者や番頭さんのような方がうまく育っているかというと、なかなかそうではないのが実情で、「親族外承継」ということで他の会社に事業を引き継いでもらうM&Aが多くなっています。そこで、弁護士が積極的にM&Aにおける法務対応をしていくことが、円滑な事業承継に資することになります。

国は、昨年度、事業引継ぎ支援センターを全都道府県に設置する方針をとりました。そのセンターでは、中小企業経営者の親族外承継の要望に対応すべく、M&Aを実施する際に必要となる専門家を紹介することとしています。弁護士会もこれらのニーズに積極的に対応していこうと考えています。

事業承継において弁護士が関わる場合には、単なるM&Aの対応だけではなくて、状況によっては金融負債をカットした上で事業を引き継ぐ手続を実施したり、一部事業を廃業する手続を実施するなど、多岐にわたる対応ができるという利点もあります。

引継期における支援 ― 事業再生

【伊藤】次に事業再生における弁護士の支援をご紹介いただけますか。

【堂野】2013年3月に中小企業金融円滑化法の施行が終了しましたが、未だ堂野に20万社や30万社という中小企業がリスケジュール(元本の返済猶予)を受けながら事業を続けていると言われています。

多額の負債を抱えた企業を抜本的な経営改善や債務処理により立ち直らせる必要があるというのが、中小企業の関係者の共通認識だと思います。事業再生を実現するにあたって重要な視点は三つあります。

一つめは、「負債の処理」。事業再生をする中小企業は、金融機関の借入債務が大きくなっているので、負債を適正な額に調整することが必要となります。

二つめは、「経営の改善」。会社が再生するためには継続的に利益を上げていくことが不可欠であり、そのために様々な経営の改善をしていかなければなりません。

三つめは、「経営者の保証債務の処理」。多くの中小企業では、経営者が金融機関に借入金の連帯保証をしているので、経営者が事業再生に踏み出す上で保証の処理が大きな壁となります。

この三つの点に適確に対応できるのが弁護士の強みです。

一つめの「債務の処理」に関しては、金融機関と交渉をして、適正な返済条件を定めたり、一部の債務を免除してもらったりします。私的整理という話合いで進めていくのが基本ですが、場合によっては民事再生のような法的手続を選択することもあります。ここでは代理人という立場で交渉する技法や経験を備えている弁護士の強みを発揮できます。他方で、経営者にとって、本業は自分の得意なことですが、金融機関との交渉は、本業とは性質が違うため、肝心な方向性を経営者自身が決定するとしても、実際の交渉は弁護士に任せていくことが合理的と言えます。

また、債務返済の交渉、特に債務免除が関わるような場合には、弁護士法72条の問題があって、代理人として交渉ができるのは弁護士だけだと考えられています。この点からも、「債務の処理」については弁護士が積極的に関わっていく必要があります。

二つめの「経営の改善」に関しても、経営改善計画の策定や実践にあたって、弁護士は、他社の事例も踏まえながら一歩下がった客観的な立場でアドバイスをすることができます。計画に関しては数値面で公認会計士などの助力も必要ですが、弁護士は公認会計士とは違った角度で意見を言う役割があります。

三つめの「経営者の保証債務」に関しては、2014年2月から「経営者保証に関するガイドライン」が適用されています。これは、法的拘束力はありませんが、遵守することが金融機関に期待されています。このガイドラインによると、一定の要件を充たせば経営者が一定の資産を残して保証債務の免除を受けられる道が開かれています。その活用事例は最近増えてきています。弁護士が債務者の代理人という立場で寄り添うことでスムーズに進んでいくと思います。

具体的な手法としては、裁判所の特定調停という手続を利用するのがお薦めです。当センターが最高裁判所、中小企業庁、金融庁と協議して、ガイドラインに基づく保証債務の整理に特定調停を利用する運用が2 年前から始まり、事例も徐々に増えています。

中小企業の事業再生、債務処理については、地域経済活性支援機構や中小企業再生支援協議会の手続もありますが、相当な規模のある企業に利用が限られてしまうので、10万社以上の中小企業が抜本的な事業再生を必要とすると言われる中で、ごく一部の企業しか恩恵を受けられません。もっと中規模、小規模の企業に使いやすい制度で、簡易迅速に債務処理ができる仕組みとして、特定調停が利用できます。当センターはシンポジウムやセミナーで金融機関その他の関連団体向けにその周知を進めているところです。

また、経営者が高齢で引き継ぐ方がいないなど、どうしても事業を継続できない場合には、清算を視野に入れる必要がありますが、破産することで取引先に迷惑をかけてしまうときは、破産でない形でソフトランディングするために特定調停を活用できます。

【髙井】中小企業金融円滑化法の施行が終わった後、現時点では倒産企業がそれほど多くないのですが、中小企業再生支援協議会が対応しているケースでは、暫定リスケジュールという形でとりあえず様子をみようという企業が多くあります。今後そのような企業がどうなるかが一つのテーマになります。

これらの企業において、抜本的な対応が必要となる時に、特定調停を含む様々なメニューがある中で、この企業にはこの手法が良いなどと適切な手続を選択できるのは、様々な手続を見ている弁護士ならではです。そういう意味で、弁護士が入ることによって適切な事業再生ができると思います。

もう一つは、経営者保証に関するガイドラインができて、その運用上、支援専門家が必要になってきます。今後、弁護士が支援専門家として入ることによって、保証人の保証債務について適切な処理をして、事業再生を円滑に行うことが期待されます。


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