弁政連ニュース

〈座談会〉

少年法の成人年齢引き下げがもたらすもの(5/5)

いま、非行防止、再犯防止に求められていること

【斎藤】非行少年の成長を支援し再犯を防止するために、少年と向き合っている現場から必要だと思うことをお話しください。

【杉浦】学校教育の現場について言えば、矯正施設で行っている子どもに対する接し方(子ども一人一人を見る、それぞれの個性を伸ばす、自己肯定感を持たせること)を実践してもらえないかという気がします。また、経済的な格差が子どもの世界にも反映してきていて、さらに加えて不平等でも当たり前、自己責任だという風潮が社会に広まる中で大人の姿勢が子どもの姿勢に反映されて子どもの中でいじめがあって自己肯定感が持てなくて脱落していって、自分で何とか見つめ直そうとすると非行に走るしかないという悪循環が子どもの世界におこっている気がします。

少年法とか刑事法制の分野では、2000年以降ずっと子どもの支援育成という観点からは少しずつ外れる少年法「改正」が続いているように思います。この法「改正」の動き自体についてはどこかで歯止めをかけるべきだし、歯止めをかけるとしたら実証的事実に基づいて行われるべきです。何よりも少年犯罪と少年法の手続に関する正確な事実をたくさんの人に知ってもらわなければと思います。

【横山】少年成長支援と再犯防止という事からすると大人がしっかり子どもに関わっていく社会を作っていかなければいけません。排除の論理では全く逆の方向に行ってしまうのではないでしょうか。やり直しのきく社会を作っていく事からスタートしないと駄目です。子どもたちの自己肯定感や自己有用感が低く、非行をしてしまう背景には、虐待、貧困などの社会のひずみがあると思うので、福祉との連携を考えていくべきだと思います。検察が関わって起訴猶予にした後に福祉に繋ぐような運用も出てきています。また、少年院に行った子どもたちが少年院から出て来た後の就労支援の問題も大きいと思います。仕事をする、続けられるという事は自己肯定感、自己有用感を高めるので、そういう関わりをもっと拡大していくことが大事だと思います。

【葛野】福祉については特に貧困と格差が広がる中では大変重要なことだと思うのですが、本来は家裁が担うべき役割で、家裁がケースワークの中で福祉との連携を強めて福祉に繋いでいく、あるいは家裁の決定に基づく少年の処遇の中で福祉と連携するということだと思います。裁判所に送る前に検察官が先取りしてやるという方向がいいかには、透明性と公正さという点から疑問を持ちます。

【横山】そこは問題があると思います。ただ、司法の働きの中で福祉に繋げていかなくてはいけないという発想は評価すべきだと思います。

【葛野】少年法というのは柔軟な構造を持っているわけです。家裁の調査、審判の過程の中で一人一人のニーズに合わせたケースワークができる。そのなかで、福祉を必要としている少年であれば積極的に福祉と繋いでいくといいと思います。

【横山】背景事情にどれだけ迫れるかという事だと思います。刑事手続に乗せてしまうとその子どもの持っている背景事情に迫っていけない、何がしんどかったのかわからない。そこに迫れるのが家庭裁判所と保護処分の関係各機関だと思います。今の少年法手続の中に福祉の視点をさらに入れて少年法を鍛えていくことが大事だと思います。

【斎藤】家庭裁判所の社会的性格というのは創設当初から言われていて、社会的な繋がりを強めていくのが家庭裁判所の特色でもあったわけですからね。

【横山】その意味からいくと裁判官時代は試験観察をかなりやりました。その中で気付きを与え、福祉に繋げることも考えました。このような時代だからこそ、もう一度少年法の原点に戻って、少年法の持っている良さを磨いていく、やり直しのきく社会を構築する視点が大事だと思います。

【八田】川崎事件で気になったのですが、今の風潮は主犯格の少年が悪くて責任は彼にあるというものです。確かにそうだと思うのですが、実は主犯格の少年も生い立ちはひどくて、事件までに加害者になるか被害者になるか分からない状況でした。本来、ああいう事件が起こる遥か前から社会的な対応がとられなければいけない。地域というか、学校というか、非行防止の役割を担うことがたくさんあるのではないでしょうか。そうすれば被害者にも加害者にもならずにすみます。そういうことを理解してもらえれば社会の雰囲気も変わってくると思うのです。地域が関わっていくことは少年法以前の問題として必要だと考えています。また、再犯の問題ですが、少年院で勤務していて心に深い傷を受けた少年は立ち直るのが厳しいと思います。例えば永山則夫もそうですね。彼は就職と離職を何度も繰り返して、追い詰められていきます。虐待等で深い傷を負った少年が親を殺したいというのは稀な話ではありません。矯正施設も一つだけでは無理で、複数重ねて成長していく。子どもは大体つまずきながら成長していくものです。大きなつまずきをしないように見守るシステムがあればいいと思います。

【葛野】少年司法は正当に評価されるべきだと思います。たとえば年齢別の検挙率ですが、何年生まれの人でも15、6歳でピークになって年齢が進むにつれて劇的に減少していくのです。要するに15、6歳で非行を経験した少年が18、19歳になる、あるいは成人になると、もう非行・犯罪から離れていく。そういう一貫した傾向がある。国際比較から見ると日本の成人犯罪というのは顕著に少ないのです。仮に18、19歳を成人にして教育的な処分を受けて立ち直るチャンスを奪うことになると、刑事政策的に見ても成人犯罪の増加、犯罪から離れることのできない成人の増加というマイナス効果が生じて、日本の社会を危険で不安定なものにすると思います。

【斎藤】貴重なお話をたくさんいただき、ありがとうございました。

於霞が関弁護士会館

(平成28年1月8日 於霞が関弁護士会館)

 


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