弁政連ニュース

〈座談会〉

少年法の成人年齢引き下げがもたらすもの(4/5)

【斎藤】八田さん、少年院の処遇内容についてお話し下さい。

【八田】少年が少年院に送致されると家庭裁判所で作成された少年調査記録と、鑑別所で作成された少年簿(鑑別結果等)が少年院に送付されます。それに基づいて一人一人の特性にふさわしい個人別矯正教育計画が策定されます。それは、「少年がどのような人で、なぜ非行をしたのか、どうすれば立ち直れるか、再非行をしないで健全な社会人になれるか」という観点から、計画書を作るのです。それを見取図にしながら色々な教育をします。生活指導によって非行を見つめさせ、人間関係を学び、共感性を培い、職業補導によって資格を取らせたり、中学生には義務教育、それ以外の少年には通信制教育や高校卒業資格認定を取らせる指導など、様々な領域で働きかけています。

特に被害者については、少年院が早くから取り組んできました。「被害者の視点を取り入れた教育」は、被害者の心痛や苦痛を理解させ、それに対して自分はどうすべきか、謝罪や賠償、慰謝などを考えさせています。

【斎藤】刑務所出所者と、少年院出院者の再犯率の違いについて把握していますか。

【八田】再犯の定義や比較は難しいですが、少年院出院者の再収容が5 年以内で大体20から25%くらいですね。30歳未満の若年成人で刑事施設出所後の5年以内の再入率が大体35〜45%くらいで高いです。

【斎藤】葛野さん、アメリカでは保護教育処分と刑務所における処分を受けた場合の再犯率の違いについて調査をしていると聴いていますが、その結果をお話ください。

【葛野】アメリカでは1970年代の末から80年代、90年代、2000年に入ってしばらく極端な厳罰政策をとってきました。そういう中で、年齢や生育環境、犯罪の内容等、他の条件の影響を排除した上で刑事処分の方が社会復帰や再犯防止に効果的か、それとも保護処分の方が効果的かを厳密に測定する実証研究が行われてきました。

それによれば、やはり刑事処分を受けた場合の方が再犯の可能性が高い、保護処分の方が低いという結果が出ています。理由葛野 としてあげられるのは、保護処分の方が個人の抱える問題に応じた個別的で教育的な処遇を充実させていること、刑罰によって長期間社会から隔離されると、社会の中で戻るべき場所や役割を見つけることが難しくなること、社会の側も刑罰を受けた人をより強く排斥して受け入れない傾向があることなどがあげられています。

近年アメリカでは行き過ぎた厳罰主義を見直して、少年法の適用年齢をむしろ引き上げる、あるいは少年に対する刑事処分の適用を抑制する傾向が顕著にみられます。

【斎藤】アメリカでは脳科学の進歩も少年法制に影響を与えているとのことですね。

【葛野】はい。25歳頃までの人間の脳は成熟途上にあり、まだ未成熟であって、そのために周囲の人や環境の影響を受けやすい、また、衝動的な行動欲求を充分制御できないという脳科学の知見が確立しています。ここから、同じ行為、同じ結果であっても少年には成人と同程度には刑事責任を問うことができない、同程度の法的非難を向けることができないという考えが承認され、厳罰主義からの脱却が進んでいます。18歳未満の死刑や仮釈放のない終身刑を憲法違反だと判断した合衆国最高裁の判決は、このような脳科学の知見を基礎にしています。

自民党政務調査会提言への懸念

【斎藤】自民党政務調査会の提言を見ますと、「18、19歳に対する少年法の保護処分が果たしている機能は大きいものがあるので、この年齢層を含む若年者のうち、要保護性が認められる者に対しては保護処分に相当する処分の適用ができるような制度のあり方を検討する」と記載されています。葛野さんのご意見をお聞かせください。

【葛野】具体的な制度構想がまだ明らかでありませんし、特に保護処分に相当する措置というのがどういうものなのかわからないので考えにくいのですが、適用年齢を18歳未満に引き下げた後、18、19歳の若年成人の処遇の選別・決定をどの機関が、どういう手続によって行うのかというのが問題になります。仮に検察官が起訴する段階で刑事処分が相当か、保護処分が相当かを選別するということになると、旧少年法の検察官先議と同じ構造になります。保護処分的措置が相当だと判断するためには要保護性を認定しなければなりませんが、そのためには科学的調査が不可欠になります。もし検察官が犯罪事実の実質的な「認定」を基礎にして、少年鑑別所なり保護観察所なりの機関が科学的調査を行う。それを基に検察官が要保護性を認定して処遇選別を行うという手続を作るのであれば、刑事手続の原理や原則、検察官の基本的性格等と関連して非常に大きな問題が生じます。

第一の問題は、適正手続上の問題です。要保護性の調査は現在家裁の調査官が行っていますが、少年の性格や家庭環境、生育環境についての科学的な調査は、必然的に少年や関係者のプライバシーに深く踏み込むものになります。現在、家裁の社会調査は、裁判官が送致資料を調査して非行事実の蓋然性を認めた時に初めて家裁調査官に対して調査命令を発するという手続によっています。こういう形で司法的抑制をかけているわけです。

検察官が犯罪事実があると実質的に認めて処遇選別のための要保護性の調査を委託するという手続は司法的抑制を欠くことになります。裁判所の有罪の認定、少なくともその蓋然性の認定の前に要保護性の調査と処遇選別を行うというのは無罪推定の原則にも抵触するものと思われます。

さらに要保護性についての科学的調査を行うことになると、勾留されている被疑者の場合、心身鑑別の期間も含めて、身体拘束が相当長期化することになります。

もう一つは検察官の基本的な立場から見ての疑問です。検察官が犯罪事実の実質的な「認定」をしてそれを基礎に処遇選別の役割を担うというのは、検察官の準司法官的役割を承認することに他なりません。いわば旧法時代への逆戻りです。現行法の当事者主義の基本構造や当事者としての捜査官・訴追官たる検察官という基本的立場と相容れません。私は、本来、処遇の決定というのは、教育的処遇の必要性と自由という人権の制約との均衡点を決める判断だと思います。正に司法機関たる裁判所が担うべき役割でないかと考えます。

非行に走る18、19歳の実像

【斎藤】話を原点に戻しますが、そもそも非行に走る18、19歳の少年の実像はどういうものかをお聞きします。杉浦さん、付添人として少年と接している立場からどうですか。

【杉浦】大きく分けて二つのタイプがあるかと思います。一つは、全く今まで非行した事がなくて走ってしまう子ども。ひと口で言えば抵抗力がないという感じです。現実とバーチャルの区別がついていない。軽微な犯罪だとして18、19歳で手当てをしないで見逃されてしまうことになれば、非常に大きな問題を起こしかねないタイプ。本人は悪気があるというよりも、よく分かっていない。

もう一つは、何度も繰り返して、今までもやっていたけど18、19歳になってもまだ繰り返すタイプ。この歳になって少年院で教官に接してもらって気が付いた、あるいは試験観察でちゃんと励まされて立ち直るのに気が付いたとか、自分の中に非常に葛藤があってこのままではいけないと思い続けて、18、19歳の段階でかけてもらった保護的な対応というのが彼らを立ち直らせたというケースをいくつも見ています。

【斎藤】家裁裁判官としての経験からどうでしょう。

【横山】審判で思うことは自己肯定感とか自己有用感が凄く低い子たちが多いことです。18、19歳になっても自己肯定感が持て横山 ず、犯罪に手を出してしまうのですが、鑑別所での生活、審判での裁判官との関わり、あるいは在宅試験観察の中で様々な気付きを得て成長しているところが見えます。その意味で可塑性には富んでいると思います。懇切丁寧な審判を通し、あるいは少年院に送った子どもとは手紙のやり取り、1年に2回ぐらい面会(動向視察)をする関わりの中で、色々な気付きを得て変わってきているということがあります。そのチャンスを18、19歳の子どもは生かすことができると思います。

刑事裁判官をやっていた時、若年成人20、21、22歳位になってくるとなかなか可塑性がなくなりつつあると感じることもあって、その点18、19歳というのは柔らかいというか働きかける最後のチャンスではないかと思います。

【八田】統計的なことをお話します。2014年ですが、少年院に入った者2, 872名中18、19歳が42%を占めています。保護者の状況は実父母がいるのは32.8%、母と一緒が39.4%、父とが11.1%、義理の父、母と一緒が9.4%です。家庭環境は、実父母の割合が年々低くなって、良い状況ではありません。

学歴をみますと、中学と高校中退で合わせて63.5%、現在大学進学率は50%を超えていますから、少年院に入るまでに非常にしんどい生活を送っていることがわかります。本人のせいだけではなくて、家庭や学校の環境自体が厳しいのだと思います。


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