弁政連ニュース

〈座談会〉

少年法の成人年齢引き下げがもたらすもの(3/5)

年齢を統一する必要はあるのか

【斎藤】自民党政務調査会の提言を見ますと、選挙権年齢を18歳にし、民法の成年年齢も18歳になるのであれば全ての法律において成年となる年齢を18歳に統一するのが国の法体系として望ましくわかりやすいという議論がされていますが、この点についてのご意見お願いします。

【杉浦】少年法の目的、子どもを更生させること、将来の再犯を減らすこと、日本社会を安定させること、そこから考えた場合に、「わかりやすさ」というのはどういう趣旨なのか全く理解できません。

少年自身の立ち直りという事を考えた場合に、少年の実像を見ると少子高齢化の影響で中卒、高卒で働く子が少なくなってきています。客観的に「子ども期=未成熟な時期」が長くなってきている。一方で環境としても格差が大きくなってきて、格差を是認するような社会がある。こうなった時に18、19歳で今まで比較的恵まれない環境から外に出てしまった子どもたちが不安定な生活を送る中で何らかの失敗をしてしまった。この時に今までの保護・教育という観点で少年法での手厚い救済をしなければいけないという要請がスッポリ抜け落ちてしまっている。一方被害者という観点から考えた場合にも、よく私が被害者の方から聞かされたのは「親の育て方が悪いんじゃないか」という言葉です。あるいは被害者の方が、自分の子どもを殺めた少年に継続して会いながら育て直してる事例も見ています。つまり非行少年の育て直しをして、少年がわかるように指導するということが被害者の方の立場からも要請されている。

「セカンドチャンス!」という元非行少年が非行少年の立ち直りを支援する活動に関与していますけど、18、19歳のときに少年院で教官に指導されて立ち直った、18、19歳になってあるいは試験観察の中で救済されたという子どもたちの声をたくさん聞いています。現行法で子ど杉浦 もたちを救う力になっているものが外されてしまい、大人と同じように軽い犯罪ということで放り出されてしまう、あるいは刑事罰を科せられるという形になっていったとしたら、今の子どもたちの力は生まれなかったのではないか。18、19歳は、ちょうど自分の人生を振り返り、今後を考えることのできる非常に貴重な年齢だと思っています。こういう大きな要請を実現できる現行少年法を、「わかりやすさ」という形式で改定するという議論そのものが、おかしな発想だと思っています。

【葛野】旧少年法時代には少年法の適用年齢は18歳未満でしたが、民法の成年年齢は20歳、また、1925年の普通選挙法で選挙権を認められていたのは25歳以上の男子でした。法にはそれぞれ固有の目的があります。適用年齢については、法それぞれの目的からみて適した年齢は何歳かという実質的な判断によって決めるべきだと思います。そのような実質的検討抜きに年齢統一のためということで適用年齢を決めると、それぞれの法の目的にそぐわない不都合な結果を招くでしょう。

少年法の成人年齢が引き下げられたら

【斎藤】少年法の成人年齢が引き下げられた場合に生ずる弊害について話を進めたいと思います。横山さん、成人年齢が引き下げられますと18、19歳の若者が刑事事件手続で処置されることになると思うのですが、家庭裁判所の手続で処置される場合との具体的な違いについてお話いただけますか。

【横山】少年事件は全件が家庭裁判所に来ます。重大事件や重大事件でなくても調査する必要がある場合には観護措置という形で少年鑑別所に身体拘束されて、その間科学的見地から資質等を調査します。その上で審判を行いますけれど、この時には懇切丁寧に少年自身に問題性の気付きを与えるような審判をしていきます。最終的に処分を下す時にも、保護観察、少年院送致と教育的な観点から決定し、場合によっては環境調整までしていくことで子どもたちに対して働きかけをしていくのが少年審判手続の大きな特徴だと思います。

少年法の成人年齢を18歳にすると、18、19歳は刑事手続で処分されるという事になってしまい、そのような関わりがなくなってしまいます。そうなった場合更生するきっかけを失ってしまうのではないか、再犯防止を考えた上でもこのような関わりがなくなってしまうのは社会にとっても大きなマイナスではないかと考えます。

【斎藤】18、19歳の少年事件の9 割以上が比較的軽微な事件といわれています。こういう事件が刑事事件手続に回されてしまうと一体どうなるでしょう。

【横山】軽微な事件ですと、検察官が起訴する必要もないと判断した場合には起訴猶予ということで何ら更生に向けての関わりがないし、罰金になればただお金を払えば済んでしまうということになり、更生させる為のきっかけができないということが非常に大きな問題だと考えます。ちなみに、統計上起訴猶予は約65%、罰金は約30%で、あわせると9割以上になります。

【斎藤】18、19歳に限りませんけど、被害者が死亡したような少年事件においては、現在の家庭裁判所の処分の実状はどういうものでしょうか。

【横山】そのような重大事件については、現在でも大人と同じような刑事裁判手続で処分されています。成人年齢を引き下げて18、19歳の子どもたちを大人と同じように処分すべきというのは重大事件を意識してのことだと思いますけれど、重大事件であれば、今の少年法の枠の中でも18歳以上には死刑も含めて大人と同じような形で処分されることもあります。その意味で、少年法の成人年齢の引き下げは、軽微事件の少年にもたらす影響が大きいのです。

【斎藤】少年法の成人年齢が引き下げられた場合に18、19歳は少年院に入る事はなく刑務所に収容される事になりますが、八田さん少年院と刑務所の具体的な違いについてお話ください。

【八田】まず、第1に施設の目的が違います。刑八田務所は刑罰を執行するところで、懲役刑は拘置されて作業を行います。少年院は、家庭裁判所から保護処分として送致された少年に対し、改善更生と円滑な社会復帰を図るために矯正教育を行うところです。第2は、規模の大きさです。それに伴い、人間関係の関わり方が違ってきます。少年院では教官及び在院生同士の濃密な人間関係のなかで処遇が行われます。3番目は、刑務所の矯正処遇は、主に日中の作業ですが、少年院の場合の矯正教育は生活指導や職業指導等、日中のほか夜間も集会や学習など様々な教育活動をします。少年院の教官は24時間が教育だと言う人もいます。第4は、指導のねらいの違いです。刑務所は、薬物依存や暴力団離脱、性犯罪再犯防止指導等をしますが、これは犯罪に焦点を当て、ピンポイントに働きかけるものです。少年院では同様の非行に焦点を当てた指導のほか、自己肯定感や共感性を育むなど、少年の成長発達を支援し、人間としての全体的な成長を促します。

だからといって、少年院は刑務所に比べて甘いわけではありません。刑務所では定められた時間、作業をしますが、少年院では毎月、矯正教育の成績が評価され、改善更生の度合いが厳しくチェックされます。不十分であると出院が遅れることもありますから、少年院の方が厳しいという人もいるのです。

【斎藤】横山さん、少年法の保護処分と刑事法の処分を比較した場合、どちらが再犯防止に効果があるのでしょうか。

【横山】先ほど少年事件の9 割以上が軽微な事件といいましたけども、そういう事件も家庭裁判所へ送致されます。最終的な処分としては審判を開始しない審判不開始、あるいは審判はしたけど保護処分を付さない場合には不処分という形で終わりますが、そこに至るまでに家庭裁判所では色々な教育的措置を少年にしていきます。

一例としてビデオ視聴。交通関係ではスピード違反、脇見運転が如何に危険なのかについてビデオを観てみんなで考えてもらう。薬物関係も同様です。また、調査官から色々な働きかけがあり、窃盗であれば被害店舗の店長さんに来てもらって話をしてもらう等もあります。清掃活動などのボランティア活動もしています。家庭裁判所の友の会という会があって、年配の方と一緒にボランティア活動をする、あるいは親子で参加するという形です。最終的に何も処分はしないけど気付きを与える機会が家庭裁判所の措置では多く、再犯防止に資すると思います。


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