弁政連ニュース

〈座談会〉

少年法の成人年齢引き下げがもたらすもの(2/5)

少年法の目的と成人年齢を20歳に引き上げた理由

【斎藤】本題に入りますが、まず葛野さん、少年法の理念、目的についてお話し下さい。

【葛野】少年法1条は、少年法の目的が非行をした少年の健全な育成にあると明記しています。

人間社会は、犯罪に対して懲らしめ、見せしめ、つまり応報と抑止を目的とする刑罰を科すという法制度を、何千年も前から持っていました。しかし、少年が犯罪をした場合には、むしろ犯罪を契機としてその少年の抱えている性格や環境の問題を解明してその少年が立ち直るために必要な教育を施そう、その上で社会の一員として社会に戻していこうという理念に立った少年法を作りました。

世界的に見ても、少年法の歴史はほんの百数十年です。日本でも1910年頃から少年法を作ろうという動きが始まり、最初の少年法は1922年に作られました。この旧少年法では18歳未満が少年とされました。これに対して日本国憲法の制定に伴い、1948年に全面改正されたのが現行少年法です。現行少年法は少年法の成人年齢を20歳未満に引き上げました。

【斎藤】1948年に成人年齢を20歳まで引き上げたのは何故ですか。

【葛野】1948年当時、18歳、19歳の凶悪犯罪はとても深刻な状況にあったのですが、20歳くらいまでの者は心身の発育が充分ではなくて環境や外部的環境の影響を受けやすいから、その犯罪も深い悪性に根ざしたものではない。そこで刑罰ではなく保護処分による教育で更生をはかるのが適切だ。その方が将来の再犯を減らして日本の社会の安全と安定に寄与するという説明が、国会でなされました。

家裁がすべての少年事件を取り扱う理由

【斎藤】成人年齢のほかに、戦前の旧少年法と現行少年法が違う点はどこですか。

【葛野】旧少年法では、重罪の少年や16歳以上の少年については検察官が刑事裁判所に起訴するか、起訴猶予にするかを判断し、起訴猶予にした場合に、事件を少年審判所に送致するという制度でした。検察官が刑事処分か保護処分かを選別していたわけです。これを検察官先議制度といいます。現行少年法は、検察官先議を廃止しました。

【斎藤】現行少年法が旧少年法の検察官先議を廃止して、少年事件の全てを家庭裁判所に送致することにしたのは何故でしょうか。

【葛野】検察官は治安維持という観点から犯罪の捜査、訴追に関わるのが主な役割です。戦後刑事訴訟法が全面改正されて、戦前のような準司法機関としての検察官の地位は否定されました。健全育成という観点から一人一人の少年の抱える問題に応じた個別的処遇を決定するのは、科学的な調査機構を備えており、司法機関として中立、公正な立場から判断することのできる家庭裁判所が相応しいと考えたわけです。このことは、人権の制限を伴う処分の決定と、その前提となる非行事実の認定は司法機関たる家庭裁判所に行わせるという現行少年法の最大の改正ポイントに通じるものと考えられます。

少年法の年齢引き下げに賛成する人が多いが

【斎藤】世論調査の結果を見ますと少年法の年齢引き下げに賛成する人がかなりいます。その多くが少年事件の増加、凶悪化という事を理由にあげているようですが、八田さん、この点についてのご意見をお願いします。

【八田】少年非行は近年11年連続で減少しており、少年人口比でも61.1%も減少しています。少年の重大・凶悪事件も、1961年のピーク時に比べると89.2%(人口比でも83.1%)も減っています。ところが、私の周りにいる方々に尋ねても、少年事件は増加・凶悪化しているから、年齢引き下げに賛成という方が多いです。その最たるものが、2015年7月の内閣府世論調査の結果です。「5年前と比較し、少年による重大な事件が増えていると思いますか、減っていると思いますか」の問いに78.6%の人が「増えている」と答えています。非行の統計とは真逆になっています。これは、川崎事件のような重大な少年事件が起こると、メディアが競って被害者の事情を報道しますから、それに影響されるのではないでしょうか。ですから、世論といっても少年非行の実態も知らず、ましてや少年法の手続きも知らずに、思い込みで意見を述べていると思います。

議論の前提として、何よりも客観的な事実を知っていただきたいと思います。


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