弁政連ニュース

特集〈座談会〉

法制審・刑事司法制度
特別部会の結論を受けて

(5/6)

【菊地】次に移りたいと思いますが、協議合意制度等司法取引という新たな制度が導入されるということで、弁護実務に大きな影響を与えるだろうと言われていますが、小野さんこの制度どのように感じておられますか。

【小野】引っ張り込みの危険が大きくなりますが、現実には取引が行われており、きちんと表に出してルール化したという側面はある。これと併せて今回刑事免責も取り入れて、共犯者供述を得やすくする制度もできた。共犯者供述によって有罪立証する危うさが今後絶対に出てくるということを考えなければならない。だから私は共犯者供述に補強証拠を要求すべきだと言ったのですけど、全く少数意見で取り入れられていないのは残念です。

【菊地】弁護実務的には弁護士倫理も含めて非常に難しい問題というか未知の世界だと思うのですが。

【小野】仕組みが無けれ小野ば「これは利益誘導である、取引をした、だから信用性がない」と言えました。しかし仕組みができ、仕組みの中で供述を得られている時に、信用性を吟味し否定することは難しくなる。また被疑者はこういう仕組みがあることを房内で情報が飛び交っていて、みないろんなことを知っているわけです。「こういうのがあるのですね、ぜひ使いたい。俺はあいつのことを知っているんだ。」と言われた弁護士は、本人が刑の減免を図ろうとしていて、この仕組みで刑が軽くなるなら使わないわけにはいかない。実際にはその人の話しが本当なのかどうかは証拠開示がない状態では全くわからない。本人の言う事だけ聞いて進めるしかない。結果嘘だったとわかった時に、その弁護人に何の責任もないのかという問題がある。弁護人は誠実義務にしたがったのだろうけど本当にそれだけでいいのか、弁護活動として難しいことになりそうだと思いますね。

【小坂井】弁護人の立場からすると、これは売る側と売られる側と両方の立場があるわけですよね。売られる側からすると協議前後の全過程は可視化対象とすべきだと思います。そう繰り返し言ってきたのですけどこれも見事に無視された。ただ、今の依命通知の別添2 というのがあって、いわゆる参考人が立証の中核になる場合は可視化すると書いてあります。ですから、これは売られる側の立場からするとそういう参考人はきっちりと可視化しろということになります。より難しいのは売る弁護人の立場です。弁護人の誠実義務で足りるのか。新たな意味で真実義務との衝突めいたものが生じうるか。弁護人が立会って協議して、全く虚偽の取引だとわかった場合、そこに主体的に立ち会ったはずの弁護人に責任がないのかという議論はありうる。

【後藤】弁護士倫理の新しい問題ですね。刑事弁護人は依頼者の利益を追求するので、ふつう依頼者の利益と訴追側の利益が対立するわけです。しかし、この協議・合意では依頼者以外の第三者の利益を害するかもしれないという問題が起きるので、弁護人にどんな義務があるのか新しい問題になるでしょう。

【周防】今までは密室で取引があった。例えば引っ張り込み供述でも、取調官とどいうやりとりがあってそうなったのか分からない。今度は明らかに自分の利益になるから供述したというのがあらわになるわけですよ。「裁判官としてもそう簡単に供述の信用性を認めるわけにはいかない。注意深くなる。」と会議の中でも裁判官が発言されていた。裁判官が、協議合意制度があってなされた供述をどう捉えていくのか注目しないといけない。

【小野】確かに審議会の中で裁判官委員は、はっきりと発言されましたが、いざ現実にこの制度ができて実施されたときに本当にどの裁判官もがそう受け止めるか実は懸念を持っています。ロッキード事件で嘱託尋問調書を後になって最高裁が証拠能力を否定したのはわが国には免責制度がないことが主な理由だった。だから制度がもしあればいいわけです。

今確かに密室で事実上取引らしきことが行われており、そういう場合に引っ張りこまれた側の主張が裁判所で通るかというと全然通っていないのです。厚労省事件ではそこは何とか阻止はできたけど、他の事件ではほとんど通用しない。そのような実情でこういう制度ができるとお墨付きの方に力が働くのではと心配している。

【菊地】その他いろいろとございます。全勾留状発布の事件に関して国選弁護人が実現される。日弁連としては更に逮捕の段階での国選弁護という主張をしてきたのですが、最終的には全件勾留事件に落ち着いたのですが、どう評価して今後の課題というのはどのように考えればいいのか。第四段階の見通しはついたのかつかなかったのか。

【小野】第三段階の勾留全件は本来的には実現されるべきことですし、現にそこは実現できた。しかし逮捕段階での国選弁護選任体制は十分ではない。現在、逮捕の当初からかなり詰まった実のある取り調べがガンガンなされ、それが録画されているという状況があり、その間弁護人の助言が全く得られないまま調べが行われている。今回弁護士会を指定して弁護人選任を申し出ることができると教示しなければいけないことになった。そこで各弁護士会の当番弁護士制度が多少異なっており、そこを整備して、当番弁護士をさらに活用するべき課題がある。いずれにしても一歩進んだと言えます。

【後藤】憲法34条の保障がある場面、つまり身体拘束された人なら援助を受けることができるのがあるべき姿だと思います。今回勾留段階までは進みました。後は逮捕のところです。現実には、当番弁護士があるために憲法的な要求をなんとか満たしている状態です。このように、弁護士会の自主的な努力に国が依存している構造を何とかするのが今後の課題です。国選弁護制度か、当番弁護士の運用を前提としてそこに国のお金を入れる法律扶助としてするのか。日弁連としては、その部分を弁護士会の負担でやっていることをもっと国民に知ってもらって、国の在り方としてこれで良いのかと問題提起していく必要があると思います。


▲このページのトップへ