弁政連ニュース

特集〈座談会〉

地方政治への
弁護士関与の可能性
-自治体の議会及び行政に司法の視点を-

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【斎藤】では常谷さんの活動の紹介をお願いします。

【常谷】市長の方から明常谷氏石市の例を紹介していただいたのですが、和歌山市では職員からの法律相談が業務の7 ~ 8 割を占めると思います。それから日々の例規審査をしています。あとは市が訴えている、または訴えられている訴訟案件がありますので、その案件の事前整理です。代理人にはなっておらず、顧問弁護士と協力していく体制が主に取られています。議会と絡んだことはほとんどなくて、例規を提出する事前診査の段階でしか関わったことはありません。ただ議員さんが非公式に1~2回相談に見えたことはあります。この座談会に来るにあたって和歌山市でも「弁護士を議会改革で雇う話はあったのか」と伺ったところ実はあったそうです。では何故雇わなかったのかといいますと「議員さんが政務調査費を使って自らのスキルアップをしていただく方が正しいのではないか」という意見や、「議会事務局という小さなところに一人雇うというのはバランスを欠く」という理由で採用が見送られていたそうです。和歌山市の議員さんが今やってらっしゃる活動を見るに、一人常駐してまでやる必要はないと思いますので、実現するとしたらスポット的に雇っていただくことになると思いましたので、加藤先生に質問させていただきました。業務上は常勤でなければ裁けないんでしょうか。

【加藤】いえ、今後議員が「自分で立法するのが本来の職務なんだ」と意識して活動するようになっていけば、かなり必要だと思うんですが、今は執行部の側で作る条例のほうが圧倒的に多いですから、仕方がないかなと思います。今は常駐する弁護士を必要とするほど議員のスキルも残念ながらそこまで到達していない。…という感じですね。

【斎藤】先ほど加藤さんの方からお話が出た「流山市空き家等の適正管理に関する条例」と「流山市自転車の安全利用に関する条例」は議員提案でしたよね。それは具体的にどういう形で議員さんの方で条例作りをしたのでしょうか。

【加藤】市民経済委員会の方ではじまったのですが、すでに類似のものを作っている自治体のものを参考にしながら、任期付弁護士を含め、法制担当の方たちと協議しながら作り、議員立法にしたという形です。

【斎藤】常谷さんにお聞きしますが、常勤職員としてやりがいとか苦労はどうですか。

【常谷】やりがいは役に立っている実感があると一言でまとめられると思うのです。私は弁護士の論理能力がここまで特殊だと思っていませんでした。市役所の職員は、事件処理にあたって、具体的に市民とかかわって、この目の前にいる市民がかわいそうだ、という気持ちを持つようです。しかしそれは法律の要件としては考慮要素として入ってこない要素なので法律に当てはめると解決できない。法律上は考慮できない要素を考慮したいと考え、一体どうしたらいいんだろうと混乱している事があります。私は、法的に思考するパターンしか得意でないのでパターンに従ったらこうです、市民が困っていたら生活保護なり福祉の政策なりあるのだから別のメニューで対応すべきだということを申しました。例えば、家賃が払えなくて困っている方の案件では家賃は家賃で取り立てなければならないので、その方の生活支援にはほかの制度を使わなければならないことを教えて差し上げるということを提案しました。その時に、この思考パターンは我々法曹に特有のパターンで、皆さんの中には浸透していない。でも浸透させないとダメだと気付けたし、それをお手伝いすることは良かったと思います。弁護士の中にいると、一定の規範に当てはめて結論を出し、それがダメであれば例外の方法を考えるという思考パターンが特殊だと思っていなかったですね。

【加藤】それは議会にも言えて、今度子ども子育て支援法が自治体に降りてきて条例を出すことになっているので、意見交換会が市民とあったのですが障害をお持ちのお子さんがいる方が「子どもの集団保育をちゃんと保障する条文を入れてください」と発言されたのです。私は傍聴していたのですが、その保障が入っていた場合と入っていない場合がどういう風に条例以下の規則や要綱の縛りが違ってくるのかとか。その辺をアドバイスいただける人が欲しいですよね。他の法律との整合性をとる必要があると思うのです。

【常谷】原則規範、ある一定レベルのこういうものはこういう風にするという枠組みを適用して一定の答えを出して処理しようという処理手順ができていない方が多い。この住民がかわいそうという要素は住宅行政に適用する場面ではないのです。適用できないのにかわいそうだから家賃は請求しないという謎の結論を取っている。それは弁護士からしたらありえない。そういうのが問題だと感じるし是正しなければならない。

【加藤】流山市が弁護士を任期付で任用したのは今までは国が作った条例をそのままコピーして使ってきたことが多かったのですが、そうではなくて市独自のものにしなさいという風になったことによると伺っています。流山市はたとえば子どもにやさしい街とアピールしていますので、そういうところをどういう風に独自に条例に盛り込んでいくのか。職員の方は業務に詳しいのですが、どうしても今までの習慣で法律を作ってしまうので、新しい意見を取り込める視点の条例の作り方をしていけたらなと。それは議会も同じですよね。議会も市民の話をいろいろ伺ってそれを発議で条例を作ります。条例にそぐわない内容なのか入れ込むことができるのか、そういう部分を教えてもらえるとすごくいい条例ができ るのではと考えます。

【常谷】条文に入れ込めるかどうかなんですけど、条例を作るのにどのような情報を入れなければならないのかという意識が不足していると思いました。うちでも空き家条例というのは作りました。しかしその条例が残念ながら他市の事例を集めてきて貼り付けたもので、和歌山市でどんな空き家が発生してどういう種類があって各種類の空き家に対してどう対応しようというのは具体的には調査されておらず、修正の必要性を認識しましたので、多少議会への提出を待っていただいたことがありました。弁護士は裁判で問題になった場面では、なぜ条例を制定するのかという立法事実がないと、裁判所に説明できないことを知っているわけですね。そうすると作る場面においても、立法事実が必要だということを皆さんにお伝えできる。裁判という場面を想定した考慮要素を入れることができる。それはまさに弁護士が活躍できる場面だと思いました。

【加藤】私も国の法律を条例にするときに訴訟になりやすい、トラブルになりやすいものを事前に回避できるような条文を入れられることに対して弁護士の力は発揮できるのではないかなと思います。

流山市市民参加条例は修正がなかなか難しかったのですが、私たち一期生が三人くらい検討委員会に入っていて、市民からは議員がかかわったことによって市民の望む条例とは変わってしまったのではと言われたりもしました。前文があったのですが手続条例だから前文はいらない、理念条例だったらいるのだけど、手続条例に前文があるのはおかしいのではないかいう話も出て、市民が一生懸命作った前文を条例の慣例で削除されてしまったと言われました。本当に削除すべきだったのかどうかその辺の判断がなかなか議員たちでは難しいこともありますのでアドバイスが欲しいところです。議会では最大公約数で物事を考えますから一人でも反対すると全部なしになってしまうこともありますからなかなか判断が難しいのです。

【常谷】弁護士というのは自己責任で事件処理をしていくものですけど、組織になると上司の決裁が必要で、自分の判断だけで出来ない部分があります。ある提案をしても私の所属する所管課の所掌事務でなかったり、逆に必要がないのではないかと思う事務を私の一存で廃止することが出来ない。そういう点は、弁護士のほうが気楽だと思いました。


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