弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

利用者目線で改革を
「民事司法を利用しやすくする懇談会」の最終報告を受けて (5/6)


【山根】 司法制度改革でもっと司法と市民が近づくことが期待されたのですが、なかなかそうなっていない。何かトラブルがあったときに身近にすぐ相談できる弁護士さんや、駆け込める場がありますか?といって「はい」と答える人はとても少ない現状にあると思っています。消費者の被害がなくなるように皆で考える必要があります。市民が問題意識を持ち、主体的に社会に関わっていろいろな課題を解決しようという"消費者市民社会"という考え方もだいぶ広がりつつあります。消費者教育推進法もできて、各自治体で推進のための協議会をつくったり、コーディネーターを置いたりと進みつつあると思います。そういった基盤を定着させ、成長させるためにもきちんと民事司法が改善されていく必要があり、そのために国を挙げて検討する必要があると思っています。この消費者部会でも様々な議論がありましたが、市民側からすれば、アクセスがしづらい、司法というものに距離があるということを問題視しているわけです。消費者問題を解決するための武器となる法律や制度などが脆弱であるから利用されず、利用されても被害が回復できずに負担が残り、裁判したことを後悔したというような声もあります。先ほど安岡さんからも事件が少ないから裁判が少ないのか、アクセスに課題があるから利用が少ないのかというお話がありましたが、消費者部会でもそういった話が出ましたが、単純に距離を縮める努力だけすればいいのでなく、きちんと法律や制度の改善が進まなければ駄目だという課題が強く指摘されました。そういったことも全体的に今後の議論で進めていただければありがたいと思っています。

そして消費者として心配なのは、今、経済成長最優先ということでいろいろな政策、改革の方向等が示されています。そもそも経済振興重視から消費者重視へということで、消費者庁も消費者委員会もできて動いているわけですが、消費者重視社会に向かっていないという現実を感じますし、これでは消費者被害の根絶という明るい未来が展望できないというのが実感です。そうした意味もありまして、きちんと今の消費者トラブルや社会の問題を見つめて、今後の適切な経済発展のためにも法的なルールの整備は必要になりますから、様々な議論を進める場が欲しいと思っています。

【安岡】 最終報告書で挙げた提言を実現するためには司法予算が、裁判所の予算に限ってみても3000億円程度の状態でいいのか。予算規模が今のままでも配分で改善できる課題もあるわけですが、大きな目で見て国家の資源をつぎ込む割合が小さすぎるという問題意識は委員に共通していたと思います。その一点を取っただけでも、提言を実現・実行するには大掛かりな組織が必要だと考えます。本質的なところを考えてみると、冒頭に高橋教授からのご指摘があったとおり、民事法とは社会の在り方を決めるものですから、民事司法の基盤拡大は国の統治システムのなかで三権の間の権力配分を変えていくことに帰着すると思います。司法制度改革が提起されて実行段階に移る前のことを考えてみると、三権分立で三本の脚によって国の統治システムを支えると言いながら司法の脚は極めて細いものでした。それを太くするのが司法制度改革の大目標だったと考えますが、改革を経ても司法の脚は依然として細いままではないか、三権の間の権力配分をもう一度考えなければいけないのではないかという認識が懇談会での議論の底にあるのだと思います。そうなるとこれはまさに法律を整備するだけでは済まない問題になります。

そしてもうひとつ、同時に民事法制の在り方を考えることは、市民や経済事業者や法人の行動の自由度、与えられている権利の行使をどこまで保障するのか、つまりは市民の自律度をどこまで認めるかを考えることになると思います。それは抽象的にいえば、法制度の面から国の形、統治の在り方を考えるということですから、やはり大掛かりな検討組織が必要なのだろうと思います。そして先ほど高橋教授から社会の在り方を決めるものが民事法だというお話がありましたが、社会の中には当然ながら経済活動が含まれています。経済活動については、今の政権は規制改革を通じてその在り方を変えようとしています。したがって、当然法制度の在り方も考えなければいけないということになるはずです。

【高橋】 安岡さんの話を聞いているうちに、大学の法律の教師がこんな議論をしていたなということを思い出しました。昔は何か企業がやろうとするとそれは法律違反だから駄目だというのが法律家(顧問弁護士)の対応でした。ですが、30~40年前ぐらいから法学部でもそれでは法律家として役に立たないということで、こういうことを実現したいなら、これは駄目だけれども、ほかにこんなやり方があるのだと、実現可能性を示すような法律家に変わっていかなければいけないという議論を致しました。我々が今日議論している民事法というのは、使っていくべきものなのです。ですから山根さんがおっしゃったとおり、消費者を相手にする営業の方は、ここから先なら法律でも許されているし、こういう制度を使えばもっと上手くできるというような司法制度の利用の仕方というのがあるのかもしれません。今政権が経済の活性化を考えているのだとすれば、それは当然に司法の在り方を組み込んで、司法をどう上手く使って更に経済を活性化するかという視点がなければいけないと思っています。そういう意味でも国全体を挙げて考えていく問題だということです。


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