弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

利用者目線で改革を
「民事司法を利用しやすくする懇談会」の最終報告を受けて (4/6)


【安岡】 基盤整備アクセス費用部会では、裁判所や弁護士をはじめとする法律専門職の方たちの態勢をどう整備するかが主要な課題でした。現状で市民が司法サービスを利用しやすい状況になっているかを考えると非常に心細いものがあります。司法のアクセス障害の原因は何だろうかと議論し、それを4つの課題に整理しました。

まずは"時間がかからない"司法にしなければならない。2つ目は"納得ができる手続と判断が行われる"司法にしなければならない。3つ目は"当事者の費用負担が少ない"司法にしなければならない。そして最後に、司法手続の中で出てくる結果や、手続そのものについて"予見可能性がある"、つまり情報が開示されている司法でなければならない。こうした4 つの条件をかなえるために何が必要かを提言しています。

その中で物的人的な基盤を整備する必要性を強調しています。安岡氏そうした基盤整備で、すぐに思い浮かぶのは、裁判所支部が統廃合された問題です。司法過疎解消を目指す司法制度改革が実行に移された中で逆に司法過疎が進むような状態になったのです。支部の統廃合については、事件がないのだから事件の多いところに裁判所の資源を重点配分するという理屈で統廃合されましたが、この報告書の提言は、事件がない理由はアクセス障壁が大きいからではないかという考えに立って、様々な提言をしています。

それから今まで司法のアクセス障害を論じるときには、市民から司法サービス提供者への方向のアクセスのみに注目してきましたが、最近は、市民側に、問題が司法的に解決が可能である、あるいは司法的に解決しなければならない問題であるという認識がないことが司法サービス提供者へのアクセスを妨げているのではないか、というとらえ方が専門家の中に生まれています。そこで報告書では、司法の側から市民の側に働きかける、つまりアクセスの方向を逆に考えた提言、具体的には、法教育の充実を盛り込んでいます。法律の専門職の方から法的な問題を抱えている人への司法アクセスも考えなければいけないということです。

いま、あらためて出来上がった報告書を読み直すと、現状で与えられた予算の中で配分を考える、あるいは弁護士や裁判官などの今ある人的な資源の配分を考えることで、提言のある部分は実行に移せるように感じます。

また、民事手続にかかる手数料や弁護士費用などの費用負担を少なくする問題も現行法制の運用改善や保険制度の拡充などで対応できる部分もあり、その気になれば大掛かりな法改正なしでも実行できるところもあると感じています。

【斎藤】 皆様、ありがとうございました。それでは次に、改革を実現する道筋についてお話を伺いたいと思うのですが、この最終報告書では現在ある方策とともに新たに政府に強力な検討組織を求めることを提言しています。このような検討組織がなぜ必要なのか、その理由について述べていただければと思います。

【高橋】 やはり民事司法改革は政府全体で取り組むべきものです。もちろん法務省が一番大事ですが、法務省だけではなく厚生労働省や国土交通省、外務省などいろいろな政府全体、あるいは国会も含めて国全体で考えていただくような組織がほしいと思っています。先ほど安岡さんの方から、支部問題というのが出ました。私などは裁判所の問題に国がもう少し踏み込んでほしいと思うのです。裁判官というのはどういう仕事なのか、忙しくて本当にいい判決が書けるのか。そして裁判官の配置というのは顕在化した事件数だけで考えてよいのか。乱暴であることは承知した上で申し上げますが、例えば東京地裁にいたら過払い金事件が多かった当時で民事部裁判官一人当たり毎月50~60件の事件が新しく出てきて、それを裁いていかなければならない。大学にはサバティカルという制度がありまして、10年以上経ちますと研究専念期間をもらえます。裁判所でも小さなものとしてはそれなりのものがあるのですが、もう少し大きく研究専念期間のようなものを作ってほしいと思います。裁判という仕事は、法律論だけで解決するには限界があり、今後はますます難しくなります。特に家族問題はそうですね。だいたい家族法は法律の条文があまりきちんと書いていないのです。裁判離婚原因は"婚姻を継続し難い重大な事由"といっても、これは裁判官が全人格をかけて解釈しなければいけない問題ですから、その裁判官が土曜も日曜も判決を書くのに追われていては困るという視点です。こういうのは個別省庁ではなく政府全体で日本社会として考えて行くべきであります。私どもが最終報告書で出したような中身まで踏み込んだものは今度が初めてだろうと思います。個別省庁の上に強力な検討組織をつくっていただき、個別省庁での検討をサポートしていただきたいと思っております。


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