弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

利用者目線で改革を
「民事司法を利用しやすくする懇談会」の最終報告を受けて (2/6)


【斎藤】 この懇談会では、民事・家事・商事部会、行政部会、労働部会、消費者部会、基盤整備・アクセス費用部会の5 部会に分かれて議論いたしました。本日ご出席の皆さんは、それぞれの部会に所属されて議論に参加され、部会の責任者も務められたわけですが、それぞれ所属された部会の議論や提言の中身についてご紹介いただければと思います。

【高橋】 民事・家事・商事部会、そして労働部会についてお話いたします。ここは分量が多いので、少し長くなるかもしれません。まず、総論として民事司法とは社会の在り方を決めるものであり、国や社会にとって極めて重要なものであるというところからお話したいと思います。

高橋氏民法を中心とした民事法というのは、一見そう感じられないですが、社会の在り方そのものを決める法律です。江戸時代末期の蘭学を学んでいた人たちは、時々紛れ込んできた法律の本なども読む。そこには"人間は皆生まれれば権利主体となる"と書いてあり、士農工商などの区別はないわけです。それに非常にショックを受けて、弟子には見せないようにしたというような話題が司馬遼太郎さんの小説に出てくるのですが、民事法というのはつまり、一見技術的に見えてそうではない、社会の根本的なところを決めているということです。

例えば、損害賠償でいくらもらえるのかという問題があります。週刊誌から名誉棄損されたときに、30万円などという判例もあるわけですが、それで本当によいのだろうかという根本的な問いかけをこの民事司法懇はしています。あるいは、家事部門では、生殖補助医療の技術の発展に伴い、家族法が大きく揺れています。ここも具体的提言としてはマイルドにしていますが、結局夫婦や家族とは何なのかという根本問題に関するある種の哲学がなければ個別の議論もできないわけです。そういったところに民事司法懇は切り込んでいるのだということを是非ご理解いただきたいと思います。

各論的な話に入りますが、私は平成8年にでき、平成10 年から施行されました新しい民事訴訟法をつくる法制審議会、民事訴訟法部会のメンバーでしたが、民事訴訟法でアメリカ流のクラスアクションやディスカバリーなどを検討する場合、法制審議会で議論するには限界があると強く感じました。アメリカでクラスアクションが有効に機能しているという評価が高いわけですが、それは各人が回収できる、あるいは企業が吐き出さなければいけない金額が大きいというのが特色なのです。民事司法懇は、そのクラスアクションに限らず、損害賠償の額がどうかというところに踏み込んでいます。ディスカバリーに関しても、もっと証拠が裁判に出てくるようにすべきであるということを民事司法懇は言っています。現状は個人情報保護に名を借りて情報を出さないという弊害があると見ております。これを打破するにはどうしたらいいか。やはりこれは法制審議会、民事訴訟法部会レベルの話ではなく、もっと大きな政府全体の話であろうと思います。

強制執行制度の効率が悪いということについての指摘もしております。強制執行制度を強力にするにはどうすればいいのかということになりますと、例えば被告になった人は個人の強制執行対象財産をオープンにしなければいけないという制度が諸外国にはあります。日本でも原始的な形ではあるのですが機能しておりません。民事訴訟の研究者はそういったものをどんどん大きくしていくべきだと申しますが、そのサポートをもっと大きなところからいただきたいという思いが強くあります。

あるいは、家族問題で申しますと、このごろ不幸にして離婚されるときでも養育費などの扶養料をできるだけきちんと決めましょう、という方向に向かっています。しかし、決めたものをちゃんと守って払ってもらえるかについて我が国は脆弱です。これは諸外国を見ますと、養育費などは国が代わって取り立てます。そうすると養育費が決まっているけどもらえないという現象は減るわけです。そこまで日本社会が踏み込むべきかどうかまで目を向けて議論していただきたいと思います。反対の考え方も、当然あるでしょう。

さらに、私ども民事・商事・家事部会では国際的な問題を検討いたしました。例えば日本で判決を得たが、財産は外国にある。そのときに外国で強制執行できるかというと、辛うじて法律上ではできるようにはなっていますが、実際にはなかなか難しく、法律上の障害も皆無ではありません。地道な努力は世界の法律家がしており、ハーグを中心に多くの国で共通の条約をつくろうとしていますが、これはやはり随分時間がかかります。しかし日本と特に国際的な経済関係で取引の多い国との個別条約で解決するとなると、各国共通の条約よりもはるかに効率よく締結することができます。こういうものを政府にお願いしますが、これはもう法制審議会マターの話ではありません。外務省をはじめ、国の総力を挙げていただかなければいけません。また紛争解決のところでは国際的には仲裁という手続が大いに利用されていますが、日本ではなかなか利用できていません。安岡さんの部会の方にも関係しますが、日本で仲裁に習熟した人を育てるような場所がなかったことに気が付きます。長期的にはそういった人材の養成も考えていかなければならないと報告書は論じています。

労働問題について申しますと、労働関係は最近立法がクリーンヒットを打ちまして、労働審判という制度ができました。これはすぐに裁判所が合意を調整してくれるか、そうでなければ審判という形で判断を示してくれます。評判がよく、給料・退職金を払ってもらえないなどの紛争で利用されているわけです。しかし、これは裁判所組織の中で本庁でしか原則としてやってくれない。支部でもやってもらえないかという提言をしています。こういうところを克服して労働関係の問題でも、日本の社会がより明るく透明性の高い法の支配に服する社会になってもらいたいと思っています。


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