弁政連ニュース

「時代に即した新たな刑事司法制度の構築を目指して」
第二東京弁護士会会員 河津博史


法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会(以下「特別部会」という。)において、刑事司法制度の抜本的な改革に向けた議論が行われている。特別部会に諮問されているのは、「時代に即した新たな刑事司法制度を構築するため」の「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の見直しや、被疑者の取調べ状況を録音・録画の方法により記録する制度の導入など、刑事の実体法及び手続法の整備の在り方」である。

特別部会設置の契機となったのは、近年相次いで発覚した、郵便不正・厚生労働省元局長事件をはじめとする冤罪と、検察官による証拠改ざん事件をはじめとする捜査機関の不正である。従来の日本の刑事司法は、犯罪の嫌疑をかけられた人の身体を長期間拘束し、長時間の取調べを行って詳細かつ多数の供述調書を作成し、起訴された人をきわめて高い確率で有罪とすることを特徴としていた。このような刑事司法のあり方は、真相解明や国民の期待に応えるものであるかのようにも評されてきたが、近年発覚した冤罪と捜査機関の不正は、その実像を明らかにした。それらの多くでは、身体拘束の苦痛や身体拘束されることへの恐怖心が利用されて捜査機関が描く筋書きに沿う供述証拠が作成され、その筋書きに沿わない証拠は隠されたまま、罪を犯していない人が有罪とされ、あるいは有罪とされようとしたのである。このことは、刑事司法における冤罪を防止する機能が十分に作動しておらず、真相解明も多分に見せかけのものであったことを示しており、このような刑事司法のあり方では、国民の信頼を得ることはできない。

[別表]のとおり、特別部会において議論されている論点は多岐にわたるが、冤罪を効果的に防止し、国民から信頼される刑事司法制度を構築するために特に重要な課題は、「取調べの録音・録画」、「勾留・保釈の適正化」及び「証拠開示の拡充」である。

筋書きに沿った供述調書への署名押印の強要に代表される不適正な取調べを防止するためには、取調べ全過程の録音・録画を義務化することが必要である。取調べ全過程の録音・録画は、不適正な取調べを防止すると同時に、取調官と供述者の問答を正確に記録することによって、真相解明にも寄与するものである。捜査機関が描く筋書きに沿う証拠を揃え、その筋書きに反する証拠を隠して有罪を獲得することは、真相解明を意味しない。真相は、客観的な証拠と正確な記録に基づいて解明されるべきものである。現行刑事訴訟法が制定された65年前と異なり、録音・録画機器が普及した新たな時代において、録音・録画の方法により供述を正確に記録することが要請されるのは、当然の成り行きである。特別部会においては、裁判員裁判対象事件の身柄事件を念頭において、制度の枠組みに関する具体的な検討を行い、その結果を踏まえ、対象事件の範囲のあり方についての検討を加えることが予定されているが、裁判員裁判対象事件は刑事裁判の3パーセントにも満たず、これに限定されるようなことになれば、郵便不正事件の再発防止策にすらならない。不適正な取調べを防止する必要性や真相解明のための有用性に照らすと、取調べ録音・録画の対象を一部事件に限定する理由はない。仮に、捜査機関に準備期間を与えるとしても、例えば、検察官の取調べ及び裁判員裁判対象事件の取調べの録音・録画を先行して義務化し、数年後にはこれを全ての取調べへと拡大するべきである。

従来の日本の刑事司法においては、嫌疑を否認していることを理由に長期間勾留し、保釈も許可しないという運用が行われてきた。その結果、罪を犯していない人が否認していることを理由に長期間身体を拘束され、その苦痛や恐怖心から虚偽自白に至るという不正義が繰り返されてきた。特別部会では、勾留と在宅の中間的な処分や身体拘束を適正化する指針規定が議論されているが、このような不正義を生まないような制度・規定を実現しなければならない。

 証拠開示については、裁判員制度の導入にあたり創設された公判前整理手続において一定の権利が認められたが、その後、検察官が証拠開示を免れるために筋書きに沿わない証拠を還付したり、供述を調書化せずにメモにするなどの不適切な対応や、無罪証拠が隠されたまま罪を犯していない人が有罪とされていた事案が明らかになっている。特別部会では、証拠一覧表の交付、公判前整理手続の請求権及び類型証拠開示の対象拡大が議論されているが、この間の経験を踏まえ、あらゆる事件において防御に必要な証拠が確実に開示されるような制度を実現すべきである。

特別部会は、今年2 月以降、最終報告に向けて集中的に開催されることが見込まれている。この機会に、冤罪を効果的に防止し、国民から信頼される新たな刑事司法制度が構築されなければならない。


[別表]特別部会で検討されている制度


○ 取調べへの過度の依存を改め、証拠収集手段を適正化・多様化するための方策
  • 取調べの録音・録画制度
  • 刑の減免制度、協議・合意制度及び刑事免責制度
  • 通信・会話傍受等
  • 被疑者・被告人の身柄拘束の在り方
  • 弁護人による援助の充実化
○ 供述調書への過度の依存を改め、より充実した公判審理を実現するための方策
  • 証拠開示制度
  • 犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充
  • 公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等
  • 自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方

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