弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

弁護士の政策形成活動
~世界を動かす 政府を動かす~ (3/6)


【岡本広報委員会副委員長】情報をどういったきっかけで見つけ出し、かつ発信しようとしていくのでしょうか。

【猿田氏】国境を越えて情報を伝えるにはどうしたらいいか、それが、新外交イニシアティブの一番の視点です。米軍基地問題を例にとれば、この問題については、既に日本ではたくさんの調査がなされ文献が出ています。しかし、アメリカでは沖縄の問題を知っている人は少ない。ですから、日本からの情報や政策提言を伝えるにはどうしたらいいのか、日々工夫を凝らします。どんな機会にどう表現すればニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストにこの問題が掲載されるか、どんな米議員にアプローチすれば耳を貸してもらえるか、と考え、動き続けています。例えば、米紙に基地削減を訴える意見広告を掲載した際、日本の子どもが前を向いている写真を使ったら、米国人のパートナーからアジア系の子どもを使うなら顔は見えない写真に、と言われたことがありました。アメリカでアジア系の写真を使うと共感を得られない場合があるとのこと。これが現実です。また、提言活動についても、アメリカで読まれることを意識した報告書は日本にはあまり存在しません。現在、NDでは日米地位協定の改訂に向けた提言書を作っていますが、もともと興味がなく忙しい米国議員向けに、コンパクトにまとめ、実際にロビーイングをして手渡す時のこと、またそれがアメリカの政治家に使われる時のことを考えて作成しています。日本の中にいる人達の声がうまく国境を越えられるようにお手伝いをするのがNDの一番のミッションです。アメリカの議会、シンクタンクや大学、現地の団体に働きかけをし、連携をして動きます。英語や文化の違いは時に高いハードルですし、そもそも日本という国に全く興味が無い人たちに対して「日本」を売り込んでいく必要もあり、それが他のお二人とは違う難しさかも知れません。例えば、沖縄の基地問題を「沖縄」や「基地」といっても見むきもしない相手でも、「環境問題」、「女性の権利」、「子どもの権利」あるいは「米国の財政難」というトピックに関心のある人は多いので、相手の関心を見極め、それに合わせて沖縄の問題を訴えていくなどします。また、多くの人が日本に関心を持たない中、ロビーイング等の訴えの先は、アメリカの中でも政策決定に影響を持つシンクタンク研究員やアメリカの議会など、ターゲットを絞ることも必要です。また、ロビーイング以外にも、日米関係に絡む論点について、研究会・講演会をやったり、出版活動なども行います。

【伊藤氏】広く一般の方々に興味を持っていただくというのはとても大切な課題です。

日本は人権問題への意識が残念ながら高くない部分があって、人権という言葉自体にアレルギーを持っている方も多くいらっしゃいますので、それがどれだけ自分たちに身近なものなのかを共感してもらえるかというのは非常に難しいところです。国際的な人権問題で、日本人が共感しやすい人権問題というと女性の権利や子どもの権利でしょうか。あとは日本の市民は、平和に対する非常に強い意識を持っているので、シリアの紛争についてもアメリカが軍事介入するという際には、大きな反対の声があがり関心も高まりました。また、私たちは2009年からタイ・ミャンマー国境で、ミャンマーの若者たちに人権教育活動をしてきましたが、その結果としてトレーニングした学生さんが国に戻って人権活動を行うようになっています。そういうポジティブな効果がある活動には比較的共感が広がりやすいと思います。また、ヒューマンライツ・ナウのホームページで最近一番ヒットしているのは日本の問題ですね。日本の原発事故後の人権問題、東日本大震災後に避難所や仮設住宅で何があったのか、また、政治家の慰安婦発言など、日本に関わる人権問題に関しては非常に興味を持つ方が多いです。しかし、私たちは関心のあるなしにかかわらず、国内外問わず、重要な人権問題について、情報を発信するということをやっています。

それから日本人に働きかけると同時に、世界各国への働きかけも大切です。各国政府には、各国がそれぞれ得意としている人権問題について働きかけをする。例えば日本政府は、カンボジアやミャンマー、フィリピンの問題等は積極的に関わります。こうしたテーマに関しては、仮に日本人の関心が低い分野でも、日本政府には役割を果たすように求めて取り組んでいます。アメリカやカナダは、パレスチナ問題についてはなかなか人権団体の立場に共感してもらえないのですが、他のアジア地域の問題については日本より強い立場で自分たちにできることはやってくれます。さらに他のアクターが得意としているテーマもあるわけですよね。どの国もパーフェクトではないので、それぞれの利害に基づいて、自分たちとして興味を持ち、考えている人権課題がある、そこで私たちがやりたいアジェンダと一致する国に働きかけていくということになると思います。

【小川編集長】日本人だ小川編集長 と興味を持つところは違ってくるでしょうか。

【伊藤氏】そうですね。先日はバングラデシュの人権活動家が逮捕された事案について、ヒューマン・ライツ・ウォッチさんからも呼びかけがあり、国際NGO共同キャンペーンをしましたが、国内ではとても関心が低かったので残念でした。できればそういうことを徐々になくしていきたいと思っています。

【土井氏】私たち人権NGOの基本的な考え方は「問題を解決する」ということです。そのためには政策を決定する人々が動くことが必要です。よって、必ずしもあらゆる日本人にあらゆる人権問題について興味を持つべきということではないのですが、それでも興味を持っていただければうれしく存じます。ですけど例えば「なぜバングラデシュの人権問題なんですか?」と言われたら、バングラデシュに対する最大のODA供与国は日本だということを指摘したいと思います。日本政府から経済支援をするときには国際スタンダードをしっかり守って下さいと言ってもらえれば、非常に影響力があります。バングラデシュの活動家たちもそういう気持ちがあって、ヒューマン・ライツ・ウォッチにもヒューマンライツ・ナウにもぜひ、日本政府に働きかけてほしいと思うわけです。バングラデシュだけではありません。日本政府は多くのアジア・アフリカ諸国等にとって主要なドナー国なのに、人権面ではほとんどその影響力を行使してきませんでした。

日本の政府というのは非常にお金がある政府ですので、世界各国で強い発言力があるのです。しかし、人権についてはこれまでほとんど発言してきませんでした。我が国は民主国家なので国民が興味を持てば政治家は動いてくれます。そう言う意味で国民も興味を持って欲しい。それが人権問題を解決するためのもっとも効率的なやり方なんですよね。政府はたくさん経済的な支援をしている国に関して知ってもらいたいし、日本人には日本政府が外国で何をやっているのかいないのかについて目を光らせてもらいたいのです。欧米の市民社会は長い間こうした活動をやってきているので、外交官も自国の国益のためだけではなく、世界の人権のために行動することも多いです。日本外交も早くそうしたレベルに上げていかなければと思います。


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