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損害賠償請求権の時効期間を延長する 特別措置法の制定を求める意見書 (日弁連意見書)について

日弁連は7月18日付けで「東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の時効期間を延長する特別措置法の制定を求める意見書」を発表しました。

この意見書では、福島原発事故により生じた損害の賠償請求権について、民法上の消滅時効及び除斥期間の規定を適用せず、「権利行使が可能となった時から10年間」という新たな時効期間を定めた特別措置法を制定し、同法施行後5年以内に、損害賠償の実施状況等を踏まえて、時効期間の更なる延長を含めた見直しを図ることを求めています。また、特に、本件事故による健康被害や土壌汚染などの事故から一定期間が経過した後に顕在化する損害については、その損害が明らかとなった時から時効期間を起算するよう求めています。

福島原発事故の損害賠償請求権(以下「原発賠償請求権」といいます)は、民法第724条の3年の短期消滅時効にかかることになり時効によって消滅してしまう恐れがあります。

しかし、福島原発事故は、これまでの公害事件等と比べても被害規模や被害範囲において大きく異なり、日本中に大きな被害者をもたらした巨大な人災です。加害者は事故発生とそれによる被害の多くを認識しており、かつ証拠は保管され続ける状況にあるため、加害者のために3年で請求権行使を打ち切る必要はありません。一方、多くの被害者は生活再建の道筋が未だ立たない状況であり、3年以内の権利行使を迫るのはあまりに酷です。したがって、原発賠償請求権が3年で時効消滅することは著しい不正義と言えます。

先の通常国会でも「全ての被害者が十分な期間にわたり賠償請求権の行使が可能となるよう、平成二十五年度中に短期消滅時効及び消滅時効・除斥期間に関して、法的措置の検討を含む必要な措置を講じること」を求める附帯決議が文部科学委員会にて可決されました。

これを受け、東京電力は、総合特別事業計画において、「被害者の方々が消滅時効の制度により請求を妨げられることがないように対策を講じる」と述べていますが、実際には、全ての被害者対する債務の承認も、時効の主張をしないとの約束もしていません。

このままの状況では、特に、東京電力から請求書の送付等を受けていない自主避難地域等の被害者の方々については、最短で2014年3月以降、請求権が消滅してしまいますし、同社が被害者と認めている人々についても、いつまで権利行使ができるか不透明な状況にあります。

東京電力は、時効が完成してしまった被害者についても、直ちに時効消滅を主張することはなく個別柔軟に対応するとしていますが、このこと自体が問題です。加害者が、被害者のうち賠償を支払う相手と支払わない相手を、自由に選択できてしまうのでは、加害者主導で賠償が進むことになるからです。

したがって、加害者である東京電力の対応に任せるのではなく、立法によって全ての被害者が過度の負担なく原発賠償請求権を行使できるようにすることが必要であり、日弁連は、一貫して時効期間を延長する特別措置法の制定を求めています。

新たな時効期間を定めるにあたっては、本来は、被害者の実情や損害賠償の支払い状況等、様々な事情を慎重に検討することが必要です。しかし、現実には来年3月までに十分な検討を行うことは不可能です。そこで、まずは一般債権と同様に時効期間を10年間まで延長する特別措置法を実現し、その上で、同法施行後5年以内に更なる延長を含めた見直しを図るべきです。

また、原発事故に起因する健康被害や土壌汚染・水質汚濁等による損害は、長期間を経過した後に損害発生が明らかとなることが考えられるため、その時までは現実に権利の行使を行うことは不可能です。そこで、こうした損害については、実際に損害発生が明らかとなり権利の行使ができるようになってはじめて時効が進行し始めることが確認されなければなりません。

万一、このまま立法が進まなければ、100万人以上とも言われる被害者が、一斉に訴訟等の法的手続を選択しなければならなくなります。しかし、実際にそのようなことが起きれば、裁判所や原紛センターの事件処理能力の限界を超え、社会は大きく混乱することになりかねません。国は、原発事故被害者への責任を果たすために、一刻も早く、時効期間を延長する特別措置法を立法すべきです。日弁連及び弁政連は全力を挙げて、2013年中の立法を実現させる努力をしていきます。

(企画委員会副委員長 水上貴央)


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日弁連

東京電力福島第一原子力発電所事故による損害賠償請求権の時効期間を延長する特別措置法の制定を求める意見書(概要)

意見の趣旨

  1. 平成23年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「本件事故」という。)により生じた損害の賠償請求権については、民法上の消滅時効(民法第724条前段及び同法第167条第1項)及び除斥期間(民法第724条後段)の規定は適用せず、新たに時効期間を定めた特別措置法を、可能な限り早期に、遅くとも2013年(平成25年)末までに制定すべきである。
  2. 前項の賠償請求権の時効期間については、「権利行使が可能となった時から10年間」という時効期間を定めた特別措置法を制定すべきである。その上で、同法施行後5年以内に、損害賠償の実施状況等を踏まえ、時効期間の更なる延長を含めた見直しを図るべきである。
  3. 第1項の立法措置を講じる際、特に、本件事故に起因すると考えられる健康被害及び本件事故の放射能汚染等により事故から一定期間が経過した後に顕在化する損害については、その損害が明らかとなった時を、時効期間の起算点とすべきである。

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