弁政連ニュース

特集〈座談会〉

国選付添人制度拡大の
意義を語る (3/4)

被害者との関わり

【斎藤広報委員長】では被害者の関係で尽力したケースについて報告してください。

【金子氏】二人の女子少年が一人の女子をリンチしてケガを負わせたというケースです。家庭裁判所から援助依頼があって受任したケースです。被害者との関係では、被害者の方に対し、できれば両親と共に謝罪をし、被害賠償をしたい旨手紙を書いて連絡をしたところ、お会いしてからお金を受け取るかなどを決めたいということでしたので、実際に日時等をセッティングして両親と付添人、それと共犯少年の両親と付添人で、被害者の父親と面会をしました。その時の面会で申し訳無かったときちんと挨拶ができたので、それならばお金は受け取れますと謝罪を受け入れてもらいお金を受け取ってもらえました。審判の後に少年が直接謝りに行きたいといっていたので、それを被害者の父親に伝えて、少年と実母と私の三人と、被害者の父親と被害者と面会して、お互いに仲直りではないですけど、きちんと話合いをすることができました。少年にもこの件を絶対忘れてはならないという形でかなり考えてもらえた案件かなと思っています。最後に被害者の父親から、「今回先生が付いてくれてこのような形で終わることができたので、自分の娘にとっても少年にとってもこれをきっかけにしていい大人になってもらいたいという風に思っています。ありがとうございました。」という手紙をいただけましたので本当に良かったなと思えるケースです。

【出井幹事長】被害者側からすると少年本人はもちろん、出井幹事長少年の親にも接触するのは拒否感が強いケースが結構多いのではないかと思うのですが、そういう時に弁護士が間に立つことによってようやく被害者側と加害者側が繋がれるきっかけになるのでは。

【金子氏】そうですね。少年の親から被害者の家へいきなり電話して良いのかわからないという親御さんはかなり多いので、弁護士が付くことによってなんとか気持ちを伝えたり被害弁償をできるという流れが作れるのは大きいと思います。

家裁からの依頼で付添人に

【斎藤広報委員長】先ほど家裁からの援助依頼を受けて活動をしたということがありましたね。それに関連する別のケースはありますか。

【金子氏】援助依頼で受けるときは家庭裁判所にはできないが付添人ならできるのでしょうという依頼が多くて、その中で家庭環境が上手くいかないから、家族との仲を取り持って欲しい、あるいは就職先だったり帰住先がないから探して欲しいという依頼が多いですね。ぐ犯で上がってきた子が父親と仲が悪くて母親は亡くなってしまっていて、父親が家庭裁判所に呼び出されたところ、少年院に行ってもらって結構なので私は一切協力しませんと帰ってしまった事案がありました。ぐ犯といってもそもそもぐ犯の事由があるかどうかという事例だったので、裁判所も困って援助依頼をしてきたという訳なのですけど、少年も19歳なので父親と環境調整するというよりは新しい場所を見つけてきちんと働いて自立を促した方がいいだろうということで、少年と一緒に不動産屋巡りをしたり、元々仕事をしていたところがあったので、雇用継続の了解を取ったりと調整して、最終的に保護的処置で不処分になったケースがあります。

【須納瀬氏】先ほど報告をいただいたケースはどれも家裁からの依頼案件で適正手続の問題があるケースや環境調整の必要性があるということで依頼を受けた事案ですね。他に家裁からの選任依頼が多いのは、「ぐ犯」のケースです。これらは、家庭環境に問題が多く、保護者との関係構築も困難なため、家裁だけではうまく処理できないのというケースが多いですね。

【山口氏】母親と少年の二人暮らしで、母親に新しい恋人ができて、二部屋しかないところに母親の恋人が一緒に暮らすようになり少年が家に居づらくなって家出を繰り返し、その度にバイクの窃盗や無免許運転で何回も補導・逮捕され、最終的に全部まとめて家裁送致されたという事案がありました。この事案では、お母さんとその彼と少年とよく話し合って、今後の生活についていくつかのきまりを作りました。その後三人の関係も良くなり、裁判官もそれを認めてくれて非行事実はあったけれど家庭環境が良くなったので今後の再非行の可能性が無いということで不処分になりました。付添人としては少年が少年院に行かないようにということだけではなく将来に向けて上手く環境を改善し二度と再非行しないように調整していくことも重要だと思います。付添人が付くことによって少年に劇的な変化が生まれることもあります。この少年も高校を中退していたのですが、通信制の高校に再入学し私と会って人生が変わったと言ってくれて、私も本当にうれしかったです。

弁護士付添人の果たす役割

【斎藤広報委員長】具体的なケースで、参考になりました。それぞれの話の中で既に出ていますけど付添人の役割等について、総括的に皆さん言ってもらえませんでしょうか。

【金子氏】付添人の存在というのは少年の立場に立っているということが一番大きいと思います。調査官とか裁判所というのは、少年が再非行を犯さないためという点では共通していますが、どうしても中立的な立場を保たなければならない。それを少年や少年の家族は感じて、この人達は処分を決める立場にあるんだという意識があります。付添人は少年の側に立って第三者的な立場から少年や少年の家族に意見を言える唯一の立場だと思うのです。少年も少年の家族も結構まじめに話を聞いてくれ、こちらの提案に対して頑張って取り組んでくれて調整がうまくいくということが多いです。第三者的な立場で少年の側にいるというのはかなり重要なのではと思います。

【土橋氏】私も金子さんと同じですけど、よく少年事件をやっていると鑑別所に来るのが二回目、三回目という子がいます。こういった子どもで、前に付添人がついていなかった場合、前にされた処分がなぜそのようになったのか、自分の何が問題だったのかわかっていないケースが多いと感じます。処分を決める人が言っているのと違い、自分の味方なんだとやっている人が「君、ここが問題だよ」とか「こういった問題があったからこんな処分になった」と言ってあげた方が意味を理解できると思います。

【山口氏】私もまず事実認定の面で、少年というのは迎合的で真実を真実と言えないまま諦めてしまうことがあり、そこで一歩背中を押してくれる付添人がいればそれが事実なんだと強く主張できるのだと思います。裁判所というのはまず警察からの調書を見て間違いないですかと聞くわけです。そういった場面で付添人が付いていることでそれは違いますと声を出していえるのだと思います。取調べの中で厳しいことを言われて、裁判官も警察の仲間ではないかと思い誰も信用できなくなって仕方がないと諦めてしまう。付添人には、えん罪をなくす役割があります。それに加えて、実際に非行を犯した子にしても弁護士が付添人として付くことによって更生が可能になることも多いのではないかと思います。

【斎藤広報委員長】ありがとうございました。須納瀬さん補足ありますか。

【須納瀬氏】付添人の一番大事な仕事はできるだけ多数回鑑別所を訪ねて少年の話をじっくり聞く、ということ。それが出発点だし、もっとも重要な仕事だと思います。非行を犯した少年は驚くほど自分の話をきちんと聞いてもらった経験がなくて、調査官というのは少年の話を聞くのだけどそれは分析、調査の対象であって、少年を受容する立場で話を聞いてくれるとなると付添人しかいない。少年にとっては、きちんと話を聞いてもらったというのが次の更生へのステップになります。そういう意味でも付添人は重要だと思います。


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