弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

原発ADR 最前線 (2/4)

ー原紛センターで活躍する弁護士ー

 

必要な事実を聞き出す上での苦労

【柳楽編集長】調査官の仕事というのは、日程調整的な仕事を除けば、2つあるのだと思います。一つは当事者から必要な事実をきちっと出しきらせること。もう一つは、出てきた事実を前提に原紛センターとして統一感のある和解案に結び付けるというどちらかというと評価の問題だと思うんですね。

【牛久保氏】そうですね。

【柳楽編集長】その事実を出しきらせるという面でどういうお仕事をされているのか、また代理人がついている場合とついていない場合でまた違ってくるのかなとも思いますし、何かそのあたりでご苦労されていることはありますか?

【倉田氏】代理人がついていない申立事件では、思うように連絡が取れないケースが非常に多いです。仕事・家事・育児に忙しくされていることもあるのでしょうが、そもそもファーストコンタクトを取るのが非常に難しいということがあります。連絡が取れても、こちらの資料提出や事情説明の求めに対して、「避難生活で苦労させられているのに、さらにその資料の提出を求めるなんてどれだけ私たちを苦しめれば気が済むのですか」と断られることが多く、さらに東京電力に対する怒りをぶつけられることもあります。まずそこからほぐしていって「この資料があれば和解案を提示できますからお願いします」というところに持っていくまで、長ければ1 時間以上も電話をしていますし、この作業が一番大変かもしれません。あと、必要な事実だけを聞きとるというのは結構難しくて、私としてはAという事実だけを聞きたいのに、AからZまで一連の話を聞いてくださいというように話し始めたときは、気持ちよく協力していただくために、全部聞くことにしています。他方、代理人申立事件は主張も整理され、証拠資料もそろっているものが多いです。ただ、中にはこちらがどうしても必要と考える事項の求釈明に快く応じてくださらない先生もいらっしゃり、協力していただくのに苦労することがあります。

【池田氏】今の倉田先生のお話に近いものがあるのですが、やはりお電話でお話を聞かせていただくとなると、直接お会いして話を聞くわけではないので、言葉だけのやり取りで意思疎通を図らなくてはなりません。まずはそこがひとつ大きな難しいところかなと思っております。相手が話したいことは止めないで、私たちも必要なことを聞き出さなければならないので、どういう聞き方をすれば答えやすいのかを考えながら、当事者の抱えていらっしゃる事情によってもいろいろと違いますので、年齢だったり避難先の状況だったり家族の状況などに配慮しながら言葉を選びつつ、しっかりと話を聞くことを心がけています。皆さん急に避難されたりすることで、多くの苦労を重ねており、なかなか自分の状況も整理できず、また、自分の言いたいことを法的に構成することなどができないことが多いわけです。そのため、こちらのほうで損害賠償という制度自体の説明を行い、その方が何か不満を漏らした場合に『その内容であればこうした主張ができるかもしれないな』と考え、そのあたりの事実関係をきちんと聞き取るというようにお話を聞いています。サポートする弁護士がついていない方の事件を担当すると、中立の立場ということを意識しつつも、調査官がその方の代理人としての役割を一部担っているようになるかなと思います。

【河井氏】代理人のついている事件と本人の事件では全てが違いますよね。

【柳楽編集長】それは一般の弁護士会のADR事件などでもそうですよね。なかなか自分の言いたいことを法的にきちっと組み立てられない方は、どの事実が必要とされている事実なのかをきちんと整理できない。武器対等というか、そこにきちんとしたサポートをしてあげるという役割は調査官ということになるのでしょうか。もちろん、仲介委員も配慮はされているんでしょうけれども。

【河井氏】もちろん口頭審理で双方に代理人がついているような事案であれば、むしろ中立公正な機関なのでどちらにも肩入れしないということになりますけれども、申立人に代理人がついていない事件では、中立公正を意識すればこそ、むしろ申立人に釈明しなければいけません。ただ、私たちが聞きたい情報と申立人の言いたい情報は違いますし、思っていることが損害賠償金の算定で解決するかどうかというと、解決しないことも当然あるわけなんですよね。ただ、センターとしては損害賠償の算定をして和解案を提示します。東電は和解案を尊重する義務がありますので、東電は最終的には受諾するということになりますが、申立人側ではやはり「そんな金額じゃ納得できない」と言って怒りを爆発させる方もいらっしゃいますので、そこは大変つらいですよね。


統一的解決案を導く上での苦労

【柳楽編集長】次のお話にもつながってくるところなんですけれども、原紛センターの一つ大きな特徴というか、一般のADRとの大きな違いというのは、一方の当事者が常に固定されていますよね。その中で柔軟な解決をという要請はありながら、他方において解決の基準といいますか、あまり解決がバラバラになってはいけないという要請もあるかと思います。これは和解案をつくるにあたって、みなさんも相当頭を悩ませているところではないかなと思います。先ほどの話は調査官としての「事実を当事者から引き出す」というご苦労をお伺いしたんですけれども、今度はその統一性のある解決案を導きだすうえでの調査官の苦労というのをお伺いしたいと思います。

【牛久保氏】統一的な基準というのは非常に難しいですよね。個人の申立ての方についていえば、もともとお住まいになられたところがどこかという括りが一つできると思います。お住まいだった地域については、警戒区域の見直しなども行われていますので、それに基づいてセンターとしても統一的な考え方はもっています。その他に、個人の方の属性、たとえば家族構成であるとか、高齢者である、妊婦であるといったことについては総括基準などに精神的損害の増額事由として例示列挙されていますが、それも必ずしも固定化されたものではありません。中間指針はあくまでも目安ですから、その目安をもとに統一性のある解決案を導き出すには、日々、他の類似事案があるか、他の事例での解決案を具体的事情と照らし合わせながら参照し検討していくといったことも重要になります。法人の申立てであれば、事業者がどこにあったのか、どのような業種であるのか、どのような損害を主張しているのかといった括りはできますよね。法人についても、日々、他の調査官の担当案件の話も聞いて、共通点はないか注意しながら検討するという感じです。

【柳楽編集長】本当に難しい話だと思うんですよね。この基準があるからガラガラポンで答えが出るという話はむしろ少ないというか、そんなものはないと思うんですよ。どんな事件でもそうなのですが、かならず幅というか大体の目安みたいなものはありながら、あてはめの段階での差というのは当然出てきます。この問題は皆さんがどのようにして行っているのかが気になるのですが。ある事案が出ればそれを共有するという形で業務を行っているんでしょうか。

【池田氏】何と言いましょうか。自分が仲介委員の先生方と悩んだ論点があると、室長や室長補佐に相談をしたり調査官同士で「このような事案を担当した方はいらっしゃいませんか」という形でメーリングリストに流してみたり、席の近い調査官と直接意見交換をしたりと、情報交換を行い、そういうことを通して合理的な和解案を提示できるよう心がけています。もちろんその事件を担当する仲介委員の先生とも相談しますし、他の事件の仲介委員の先生とも「こういう事件をやっているのですが、どう思われますか」という話を雑談のように話をしたりして、なるべく多様な意見を聞き担当の仲介委員の先生方にフィードバックするようにしています。

【牛久保氏】そうですね、あちこちにアンテナを張ってどこでどんな案件があったのかや、A仲介委員の先生がこういう論点に対してこういう考えを持っているようだという噂を聞くと、その調査官のところにお話を聞きに行ったりとか、パネル間協議というのを開いて同じような論点を持っている仲介委員の先生方に集まっていただいて意見交換をさせていただきます。

【河井氏】政府の発表している中間指針や追補には基準があるにはあるんですが、基本的にはざっくりとした基準です。かならずそこには個別の具体的な事情によって妥当な解決をすべきという留保があります。一般論としてはそのとおりですが、個別の事情を強調して仲介委員間で食い違いが出てもいいのかとなると、やはりセンターとしてはある程度の基準作りをしようということで、案件はないけど基準作りをしようと考えている部分と、案件が来たから調整するということを同時並行で走っているというのが正直なところです。

【柳楽編集長】倉田先生、その辺りの連絡協議的なお話はありますか。

【倉田氏】私のいる係では、どの方にも同じように発生する損害項目について、「この事件は認められ、こちらの事件は認められない」という事態を防ぐため、係員の情報共有を重視しています。その意味ではほかの係と比べて横のつながりが強いのかもしれません。


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