弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

『中小企業の海外展開』を
支援する弁護士の活動
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中小企業の海外展開支援弁護士紹介制度

【出井幹事長】武藤さんのワーキンググループが中心になってつくられたものですが、「中小企業の海外展開支援弁護士紹介制度」というものが発足しております。この制度について簡単にご説明いただけますでしょうか。

【土森氏】この制度は、国際取引に豊富な経験を持っている弁護士になかなかアクセスできない中小企業の方に、海外展開支援弁護士を紹介するというものです。日弁連と提携している中小企業支援団体、現在はジェトロ、東京商工会議所、日本政策金融公庫になりますが、各団体のアドバイザーが日々中小企業の方から海外展開について相談を受けている中で、これは法律問題なので一度弁護士に話を聞いた方がいいという場合にこの制度を中小企業の方に紹介していただき、希望する中小企業の方に対して日弁連が海外展開支援弁護士を紹介するという建て付けになっています。本制度で対象とする業務内容は大きく3 つに分けられます。1 つは、海外展開に伴う現地でのトラブルや法的リスクの予防、対処法などの一般的な予防法務。2 番目としては、海外企業との取引等のための契約書を作ってほしい、あるいは点検してほしいという、いわゆる契約書に関する業務。3 番目としては、契約中の海外企業との間でトラブルになってしまった場合に、問題点を整理して道筋をつける助言。費用についても、中小企業の方が利用しやすいようわかりやすい料金体系とし、初回相談30分間無料、そのあとは10時間までは30分ごとに一律1 万5 百円となります。10時間までという設定は、契約書の作成・点検や、トラブル時の初期段階での課題整理等の対応をするための最低限の時間を確保しつつ、海外展開支援弁護士に過度の負担をかけないようにする趣旨です。10時間を超える場合は、各弁護士と任意の契約ということになり、まずは各弁護士の必要性と有用性を実感していただいて継続利用するなら続けて利用していただければいいという建て付けです。なお、現在はまだパイロット事業の段階で、対応可能な弁護士の所在する地域は、東京、神奈川、愛知、大阪、福岡の5 都府県です。

柳楽編集長

【柳楽編集長】今のところ動いている制度の仕組みとしては、中小企業の方が中小企業支援団体のところに相談にいって、そこで相談に当ったアドバイザーの方が、これは弁護士に相談した方がいいと判断した上で制度を紹介しているという流れになっていますね。だから弁護士に相談するべきかどうかを判断するアンテナの部分はそのアドバイザーに依存しているという形ですよね。そこで弁護士ではない方が、これは本当に弁護士マターだと気づくかどうかが1 つ懸念事項なのではないかという気がするのですが。

【土森氏】中小企業の海外展開支援を行っている関連諸団体にヒアリングを行った際、中小企業の方が相談に来る際には、法律問題を法律問題だと認識して相談にくるわけではなく、販路開拓や工場の立ち上げ、現地労働者の雇用といった海外展開に関する様々な相談の中に、法律問題として弁護士が対応した方がよいものが混在していることがわかりました。そこで、現時点での日弁連としての対応許容能力を考慮し、まずは中小企業の方が海外展開するとき相談にいく中小企業支援団体と提携して、当該団体のアドバイザーによるスクリーニングを経て法律問題をピックアップしようという発想でこの制度をつくりました。しかし、実際にやってみると、中小企業の海外展開のプロセスの中に、弁護士のチェックを受けるという発想をアドバイザーの方々が必ずしも強くもっているとはかぎらず、そのままスルーしてしまうこともあるというのが現状と思われます。

【柳楽編集長】そうなんですよ。この建て付けで行くなら、アドバイザーの法的なリスク感度を上げていくことは必須だと思います。

【土森氏】現在、利用件数を増加させるためにいろいろな取組を行っていますが、アドバイザーの方に、実はこういうトラブルがあるのですと具体的な法的リスクにつき理解を深める活動にも取り組んでいます。

武藤氏

【武藤氏】アドバイザーからの紹介だけではなく、弁護士からの紹介もいいことにしました。たとえば国内業務に特化されている先生が依頼者から海外案件の相談を受けたとき、そのときだけ日弁連の制度を依頼者に紹介するということもOKにしています。

【吉崎氏】ある弁護士から、「お客さんに海外案件があるが相談するところがないのでどうしたらいいか?」ということでこの制度を活用することもあります。

【土森氏】実際の問い合わせの中には、ウェブサイト制作等を行う会社が、海外での取引に関する契約書を見て欲しいという内容のものもありましたが、これをまずはジェトロに行きなさいと言うのは酷だなと感じました。このような内容のものは、提携している中小企業支援団体を通さずとも、弁護士からの紹介という形で本制度を利用できるようにしています。

【出井幹事長】この紹介制度に担当弁護士として参加するにはどうすればいいのですか?

【土森氏】現在のところ、日弁連で一定の資格要件、具体的には、原則として国際的な企業法務、取引法務の経験が3 年以上あり、海外留学、海外執務経験か、一般的な海外ロースクールに留学可能な外国語能力を有している、という条件を示した上で、パイロット事業を行っている、東京、神奈川、愛知、大阪、福岡の弁護士会にこの要件を満たす弁護士の推薦を依頼し、各単位会から推薦をいただいた弁護士を登録しております。現在全体で80人くらいいらっしゃいます。今後、パイロット事業の推移を見て、新たに推薦を受けたり、対象地域を広げるなど、参加者を増やしていければと考えております。


最後に

【出井幹事長】それでは最後にお一人ずつ今日の座談会の感想あるいは今後の弁護士の海外展開について一言ずついただきたいと思います。

【土森氏】日本の企業には優れた人材がたくさんいて、もっと世界で活躍できるのに、言語の壁があって活躍できていないと感じています。10年後か20年後くらいはインドから東南アジア、東アジアが一大市場となって、その中で生きていく日本企業となっていかなければ日本も衰退してしまう。まだ始まったばかりのこの制度を発展させて、中小企業の海外進出のときには弁護士が水先案内人としてサポートし、中小企業がその力を存分に発揮するための役にたっていきたいと思っています。

【吉崎氏】よくアジアに出張しますが日本に戻ると「緩やかな衰退かせいぜい現状維持」という状況の進行を実感します。中小企業は日本にいるだけでは間違いなく「風呂からお湯がゆっくり減っている」わけで、海外に活路を見出さないと日本経済も地方経済も衰退してしまいます。弁護士がこの一大テーマをサポートするチャンスや社会的ニーズが大いにあると思います。

【藤本氏】私もまた吉崎先生と同じような感想ですが、日本はGDPでついこの間まで2 位だったけど 3 位になってしまったのでこれから沈んでいくと、特に2 位になった中国の論調を読んでいると強く見るわけです。私は今36歳で人生まだ半分も駆けてないところで、そんな勝手に他人に沈んでいく人生とか沈んでいく国とか決めてもらいたくもないわけです。景気というのは気分の問題もだいぶあると思いますのでみんなが沈む必要はないです。弁護士から明るくしていけばいいのではと。中小企業というのは経営者がトップダウンで決めているところも大きいですが、まさにジェネラルカウンセル的な地位につく弁護士から明るく楽しくして企業を支えていくことの積み重ねでこの国が明るく前向きになれば、政治を弁護士から動かしていくことになる。その力の一部になれたらいいなと思います。

【生田氏】根本的な意識改革が必要だと思います。日本企業がこぞってEUに進出していたあの当時はお金があって銀行が貸したいと、借りて下さいという時代でした。日本の弁護士さんも一億人以上の日本のマーケットが大きかったのでそれまで内向きだったと思います。弁護士も外国に目を向ける必要がなかったのです。でも今は、外向きに変えないと変えられないまま衰退に入ります。ヨーロッパもそうです。日本はそういう風になって欲しくない。契約書のチェックや紛争に受動的に関与するのではなく、契約の交渉を弁護士がやらなければならないと思います。交渉の中に入っていかなければならないと思います。日本の企業の為に最善を尽くして、交渉力を向こうと同じレベルにするためには日本の弁護士が必ずつく状況をつくらなければいけないですし、企業の方に早くわかっていただかないといけないと思います。それができるのは日本の弁護士だけだと思うので、ぜひそうなってほしいと願っています。

【武藤氏】今の話をさまざまな人々に聞いてもらったら、弁護士はここまで考えてやっているんだという熱意が伝わって非常に良いと思いますね。中長期的には、人材の育成と、専門的な人材と知識をネットワーク化していくことが、実は一番大事なのではないかと思います。それができれば正式の紹介制度がなくても自然と対応できるはずなんですね。つまり、国内にはこれだけ中小企業に寄り添っている先生方が沢山いるので、その先生方が自信を持って「俺は海外に強い仲間を知っているよ、海外との取引があったら社長いつでも知らせてね」とでも言っておけば、そういう案件があるときに相談がきて、それをその相手国に詳しい知り合いにつないで相談に乗ってもらう、ということが自然とできるわけです。現在パイロット事業をしている海外展開支援弁護士紹介制度は、そうした場ができるまでのトライアルというか、緊急避難的措置という意味もあると思います。そして、一番大事な人と人のネットワーク、人のつながりを作りお互いに切磋琢磨し、情報を共有して勉強していく。あるいは誰が何をしているかを知るというのは、日弁連という組織のとても得意な分野じゃないですか。日弁連の、一人一人のやっていることをまとめて1 つの動きにしていく力というのはすごいものがあると思います。ただ今までは、中小企業支援という切り口はあったものの、海外や渉外業務といった切り口でやっていなかった。そういうのは外国語ができる一部の弁護士がやっていることだという意識があったのかもしれないと思います。しかし、今はそれが一部だけのことじゃない、そういう時代ではないということは間違いありません。そういった意識を持って日弁連の中の恒常的な活動につなげてゆければと期待していますし、その点を執行部は非常に理解してくれているので、我々中堅・若手はそれに乗っかって思う存分やってゆけばいいのではないかと思っています。

【出井幹事長】本日は長時間ありがとうございました。

於霞が関弁護士会館
(平成24年10月18日 於霞が関弁護士会館)



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