弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

『中小企業の海外展開』を
支援する弁護士の活動
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他業種や外国事務所との競争

【出井幹事長】藤本さんは法科大学院でも教えておられますね。今出てきたいろんなニーズに対応する法曹を育てるにはどうしたらいいかということも含めてお話いただけるとありがたいのですが。

【藤本氏】私は特に吉崎先生に大変共感しておりまして、要するに弁護士業界は遅れているという認識に強く立つ必要があると思います。例えば、中国関係ですと、大規模なコンサルの日系企業が現地にあります。最初は経理・税務だけやっていたのですが、次第に法務的なものにも関わるようになって東京にも同じような会社を作っていて、いま従業員が200名以上の大きなコンサル会社になっています。そういう他業種で先行している会社が、必要なときにだけ日本の弁護士を使う。外国の法律事務所もそうです。例えば中国では10年前、数千人規模の弁護士を抱えている事務所なんてありませんでした。しかし現在、3000人の弁護士を抱える事務所が現われています。しかもその事務所には日本語ができる中国人がたくさんいる。日本の法律事務所は大きいところでも400人くらいで止まっていて、中国語ができる日本人の弁護士はほとんどいません。つまりスピード感においても、やっていることにおいても、このような外国弁護士を含めた隣接多業種との競争にさらされているという意識を持つ必要があります。こうしたコンサル会社や外国の法律事務所がやる仕事の大半は、本当は日本の弁護士に相談するべきものです。その需要を彼らが奪っているのが現状ではないかと思います。その中でもなお勝ち残るために、一言でいえば切磋琢磨すればいいのですけど、なにも相手を潰す必要はなく、我々が窓口になって逆に我々が主となって会計士さんやコンサルや外国弁護士さんを上手く使えれば、こちらも彼らもそれぞれ得意分野を発揮して生きていく道があると思います。私は今3 つの法科大学で教えているのですが、法律だけではなく「世界で戦っていくんだ」という気持ちを持った人材を育てたいと思っています。僕はその気持ちをできるだけ早い段階で育てたいと思いながら法科大学院で教えています。

【武藤氏】他業種との競争という観点で考えるとき、弁護士の武器は訴訟紛争案件を扱えることと、それを踏まえてリスクを発見して高いレベルのソリューションを提供できること、ということにあると思います。また、もう一つ忘れてはいけないのが、 弁護士には高い職業倫理が課されているという点です。守秘義務とか利益相反避止義務などは他業種にもあるところはあるのですが、一般のコンサルさんには絶対にないところです。そこからくる信頼感を本当はもう少し強調すべきなのかなと思います。米国ですと弁護士は守秘義務もあるし利益相反しないし、さらに弁護士に相談したことや弁護士と交わした資料は民事でも刑事でも証拠にできないという「プリビリッジ(秘匿特権)」があるので、みんなまず相談にいく。税務でも会計でも紛争になると弁護士を通していろいろな専門業種を使うというルートが確立しているのです。日本は残念ながらまだプリビリッジがない。プリビリッジを持つべきだという意見は非常に日弁連では強いので、立法論としてやっていくべきではあると思います。それは依頼者の利益にもなるし、最終的には公益にもなると思います。ただ、まずは今すでにある倫理的な守秘義務とか利益相反避止をきっちり守っていって、本当に信頼されるようになって、大事なことは他業種ではなく弁護士のところに相談にいくという流れをつくることも重要なのではないかと思います。

【藤本氏】今のお話で1 点だけ申し上げると、ソリューションとして考えられる選択肢であっても、絶対に採用してはいけないものがあります。例えばアジアの場合、腐敗の問題とか裏取引など、まさに倫理と密接に絡み合うわけですよ。そこで足を踏み入れたくなる。こうやってお金をどこかへ払ったら上手くいくと思っている人がいるわけですよね。それから、我々はうまくいかなった場合の説明を、より詳しくすることができると思う。例えば中国では法律によって紛争になった場合、関係者を国外に出させない措置がある。藤本氏これは噂ベースでしか聞いたことはないのですが、今上海には子会社の董事長とか総経理をしていた人で日本に帰れない人が相当数いるようです。裁判所の命令とか法律上のルールがあるんですけれども、例えば債務名義を負ったまま払っていない、あるいは係争中の被告、その代表者・関係者であるという人は場合によっては国外に出られないという命令を受けることがあります。こうしたトラブルの対処の仕方を誤ったがために、その個人に降りかかって帰れないとか、捕まるなど、現実に起こっていることを我々は説得力を持って説明できると思います。他方、「リスクがあるから駄目だ」というだけではなくて、それなら他にどんなソリューションがあるのか、少なくとも示唆くらいはしてあげる必要があると思います。コンサルさんや会計士さんは何らかのソリューションを提案していると思うのですが、我々弁護士はどうしてもそこで法律の世界を越えない人が多いように感じます。

【柳楽編集長】今のお話ですが、これは別に海外案件に限った話じゃないですよね。企業内弁護士になられた方と話しても思いますし、企業から求められているのは、どうすればリスクを排除あるいは低減して前に進められるかという部分の答えなんです。私も、顧問先の企業から意見を求められたとき、「駄目」と言うだけじゃなくて「こうすれば上手く行くのでは」という方法を、法務の人だけではなく営業の人と打ち合わせをしたりします。意見をそこで戦わせる中で少し前に進めていくことは、海外に限らず国内の企業法務でも弁護士が強く意識していけなければいけないことだと思います。弁護士は、どうも自分たちのドメインにこだわって法律問題の殻から出ようとしない傾向があるように思います。経営は経営者が考えることであって数字は会計士、税理士が考えることだといった感じで、どうも弁護士はそこから出ようとしない人が多いと思います。そういうポジションだと、経営者が最初に相談してくれるような司令塔ポジションに立てないのです。経営者がまず税理士に相談したくなるのは、数字のことがわかるからですね。あとコンサルに相談することもあります。その人たちが司令塔ポジションにいて、必要なとき弁護士に振るという位置づけなのです。しかしそれは少し勿体ない気がしていて、弁護士は努力すれば本来そこの司令塔ポジションに立ちうるスキルを持っていると思います。

【藤本氏】アメリカのジェネラルカウンセルのあり方がまさにそれに近いと思うんですけれども、我々はなかなかそうしてこなかった歴史があります。ただ海外に関していうと、いろんな意味で法務がより拡張して、必ずしも純然たる法律じゃないところの領域があり、そこを他業種の方に取られているので、逆に最初に相談してもらえるように安心を持って応えれるようになりたいと思います。

【吉崎氏】例えば、商標出願をするのは弁理士のフィールドですが、弁護士も何らかの形で弁理士と協働して商標登録ができた場合、そのあと現地代理店にライセンスするということになると、代理店契約やライセンス契約の相談が弁護士に来ます。なので、はじめから「商標出願はやってないので、弁理士さんに相談してください」と遠ざけているとその先の依頼も来ないと思うんですね。そこを、普段から弁理士とネットワークを作っておいて、何らかの形で関与することは重要だと思います。

【出井幹事長】生田さんは何かありますか?

【生田氏】EUになるときに日本の企業が我先にと進出して潮が引くように撤退されたということがありまして、そのときの撤退案件の中には「そもそもなぜ進出してきたの?」というような案件や、あるいは全く調査もせずにあまり良くないコンサルの方などの口車に乗って原野を買わされて税金がやたらと掛かって撤退したくても撤退できないという案件がいっぱいありました。そうした経験からなぜ学んでいないのか私は信じられないのですけど、例えば、騙されて裁判になるなどして、とても複雑なことになって初めて弁護士のところに来られるというのは、少し違うと思うのです。その前から日本の弁護士ができることが絶対にあるはずです。日本の企業のことをきめ細かくわかってあげられるのは日本の弁護士だけだと思います。日本語できちんと話すことができて日本の企業の仕組みを全部わかっているのは日本の弁護士だけじゃないですか。日本の企業が海外に進出してきた時に、特にヨーロッパでは、法律の仕組みは元々ヨーロッパのものですので彼らはどうやってこれを使えば良いかよく知っています。彼らと対等にやれるようにしてあげられるのは私たち日本の弁護士だけです。日本企業をサポートし、守ってあげられる、ということをもっとアピールして、私たちがおりますので、もっと世界で羽ばたいてください、といえるような弁護士になりたいと思っております。


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