弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

『中小企業の海外展開』を
支援する弁護士の活動
(3/5)

弁護士の渉外業務を取り巻く環境

【出井幹事長】次に、日本の弁護士が国際分野にどのように関わっていくか、渉外弁護士を取り巻く環境をどのように見ておられるのか、あるいは弁護士の国際的な業務への関わり方をどのように見ておられるか、その辺り視点を広げてお聞きしたいと思います。

【武藤氏】まず日本の渉外弁護士による海外業務に対する期待、要求というのが高まっていることは間違いありません。ただ、期待が高まるということは、良い面ではもちろん仕事が増えるということがあるんですけども、別の面でいうと明らかに仕事のクオリティや予算的なことへの要求レベルも上がるんですね。例えばもっと詳しいことが知りたい。あるいはもっと効率的に知りたい。あるいはもっとうちの会社に役立つように知りたい。これは中小企業であれ大企業であれ変わりはないと思います。法律を調べて分析して解釈論を述べればよいということではなくて、「我が社が次にこういうことをしたいのでそのために役立つアドバイスをしてくれ」という視点が、特に渉外という場面では強いのかなという気がしています。それから専門化という面でいうと、おそらく大きくいうと3 つの専門化があって、1つは法律業務という面での、M&Aとかファイナンスとか紛争処理といった業務分野ごとの専門性ですね。顧問先の依頼には何でも答えるというジェネラリストだけではなく、何か1 つそういった特別の分野について深い知識と経験を持った弁護士が必要とされる、そういう取扱分野の専門性への要求があります。2つ目が地理的・地域的な専門化です。米国、中国、ベトナム、タイ、インドネシアといった一定の国々、あるいはアジアや中近東といった一定の地域に詳しい弁護士という意味です。今は米国と中国の専門家はかなりいますが、日本企業の海外展開が進むにつれて欧米や中国以外への進出も増えていくでしょうから、それに応じて他の国々についての専門家がより必要となってくる。したがって、そういった国に留学したり、その国で実務経験を積んで日本に帰ってきてからも現地の法律知識のアップデートや現地弁護士とのネットワークを続けるような人材を、一人一人や事務所ごとではなく弁護士業界が意識的に育てていかないとニーズに応えられなくなりかねない。 先ほど出井幹事長がおっしゃったような日本の弁護士を飛ばして直接現地に聞いてしまうということは、一面では弁護士業務の拡大を妨げていることになるし、反面では依頼者にとっても不十分なアドバイスしか受けられないという事態が起こりかねないわけですので、そういった事態に応えるためにも、国ごとや地域ごとの専門化も進んでいるのではないかと思います。最後はあまりまだ意識されていないのですが、特に渉外業務においては依頼者の業界ごとの専門化への期待が非常に強いんですね。IT業界、自動車業界、流通業界、製薬業界といった業界ごとに特殊な法律問題や慣行がある。日本国内では社内ににその業界に詳しい法務がいるのであまり弁護士には聞いてこないのですが、海外のこととなると、社内にいる専門の方が手に負えないのでやはり弁護士に聞いたり、現地の専門家に聞くときにその仲立ちとして日本の弁護士にも頼んでくることが非常に増えているように感じております。そうした専門家への期待に応えていくためには、法律業務ごとの専門知識、国ごとの知識、さらにビジネスの各業界ごとの知識を弁護士の世界でも意識的に培っていかないといけないのが、渉外弁護士を取り巻く環境の中の1 つの局面だと思っております。


ネットワークの重要性

【生田氏】武藤先生がおっしゃったことは、渉外だけじゃなくて国内でもいえることだと思っておりまして、日本法だってどんどん複雑化していますしボリュームも増えていますから1 人ではカバーしきれないと思うんですね。生田氏私も日本の会社が例えばヨーロッパに進出してくるにあたって彼らの要求を100%わかってあげられるようになりたくてフランスの弁護士になりアメリカの弁護士になり日本の弁護士になったんです。ですけれども、結局私1人でできることは本当に限られていて、いろんな先生方と一緒にやるという形でないと、到底この複雑に専門化の進んだ社会で、様々な会社の様々な要望に、すべてきっちり対応することは無理だと思います。その意味で専門を勉強される先生方がたくさん増えて、その先生方をお互いに知って、こういう分野のときはあの先生にお願いしよう、とかいうことができれば、それが日本の弁護士のみならず外国の弁護士にも広がるというだけのことです。どの方と手を結べば企業の要望や問題に応えられるのか、こちらの方でももっと勉強していかなければいけないのかなと思います。

【土森氏】私は、国内の顧客が海外展開する際にそれをサポートする業務をよく扱っていますが、中小企業の場合は社内に海外に詳しい人材がいないことが多く、また、国内取引の場合は法的リスクに関して顧問弁護士に気軽に相談できたけれど、海外取引になると相談できる人がいないというのが実情ではないでしょうか。でも本当は聞きたい。むしろ海外取引の問題こそ、もっと気軽に法的リスクにつき相談したいのだと思います。日本の中小企業も海外取引とは無縁ではいられなくなりつつある中で、顧問弁護士が「私は海外取引のことはわかりません」で終わらせることでは済まなくなってきていると思います。国内の弁護士が取り扱う業務の中に、海外取引の分野がどんどん取り込まれてきており、基本的な事項であれば自分で対応でき、必要があれば適切な海外の弁護士を紹介できるということも顧問弁護士に求められてきていると強く感じています。

【吉崎氏】特に海外に子会社を設立する中小企業の支援の実情を申し上げると、日本人のコンサルタントの方とか会計士さん、税理士さんが現地でサポートするなど、日本の弁護士より先行しています。日本の弁護士が中小企業の海外展開の流れとつながりきれていないのは確かです。日本で中小企業の海外展開を支援する弁護士と接触する機会がそもそも少ないこともあるでしょうし、費用が高いこともあるでしょうし、顧問弁護士が裁判でもない限り気軽に相談する関係ではないというのも聞きます。要は、社長や海外展開の責任者と気持ちが通じて、この弁護士は自社の現状ややりたいことをその方々の目線で分かってくれているか、というところだと思うんですね。例えば、私のクライアントでも、社長になったばかりで結果を出そうと海外進出しようとしていますが、弁護士の視点からすると危ないという面がたくさんあります。でも、法律はこうなっていて危ないからやめた方がいいと言ってしまうとそれまでなんですね。逆にいえば、社長としてはそれはよく分かってるけど、このままやるとどのくらいリスクが大きくて、リスクを最小限にするにはどうしたらよいか、ということを求めているんですね。できるだけやらせてあげる方向で弁護士が危険になりすぎないようにサポートする、そういう姿勢も求められ ると思います。

【柳楽編集長】かなりコンサルタント的ですよね。

【吉崎氏】コンサルタントに近い弁護士が求められていると思います。それを行うためには専門的な法律知識云々だけではなく、各国の動向や業界の動向も広く知るべきですし、より大事なのは弁護士の中小企業に対する積極的なマインド、姿勢に行きつく感じはします。あと、先ほど生田先生もおっしゃったように、現地の事情も専門化してますし、情報もアップデートしないといけない中で、1人で対応することは不可能です。ですので、日本の渉外弁護士の仕事の中に海外案件の対応の「司令塔」的な役割もあると思います。例えば、現地での紛争対応、国際商標出願や海外子会社の就労規則の作成などは日本の弁護士が主体的に関わるのは無理なので、現地の弁護士や弁理士と協働して、日本の弁護士が中小企業の要望に合う形で進めていくようなことです。そのためには、中小企業のサポートに積極的で慣れている海外の専門家とのネットワークをつくっておかないと対応は難しいです。吉崎氏あと海外展開でのニーズは法律だけではありませんので、弁護士だけでなく、弁理士、会計士、税理士、コンサルタントの方とのネットワークもつくっておく必要があります。また、地方で海外展開を初めて行う企業も多いのですが、例えば、東京にいてあまり地方に行けない私の立場からすると、地方で企業法務をやっている弁護士と連携していくという方向ですね。そうすると、日本の弁護士業界的にも、海外展開の眠っていた案件をもっと開拓できるのではないかと、今やっていて非常に感じるところです。


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