弁政連ニュース

クローズアップ〈座談会〉

法科大学院出身の新進法曹
大いに語る(3/4)

~多様なバックグランドを生かして~

ロースクール通学中の生活について

柳楽編集長

【柳楽編集長】皆さん既存の職場に属したままロースクールに通われていたのですか。

【日吉氏】私はそうです。

【柳楽編集長】ロースクールに通われていた時間帯は日中ですよね。

【日吉氏】全日制ですので、午前9時から午後5時半くらいまでは基本的に大学に行って、午後6時過ぎに出社して、夜の1時くらいまで勤務していました。

【柳楽編集長】ものすごいハードな生活ですね。

【日吉氏】はい。

【柳楽編集長】谷井さんは辞めてから地元に戻られたということですが。

【谷井氏】私はゆとりある生活を送りたかったので(笑)

【柳楽編集長】銀行にお勤めのころは東京にいて、辞めてから広島に戻られたわけですよね。東京のロースクールに行かずに、広島のロースクールを選択された理由は何だったのでしょうか。

【谷井氏】一言で言えば、経済的な理由というか、銀行の時にもうちょっとちゃんと畜財をしていればよかったのですが、私も銀行業務でストレスが相当貯まっていたのかと思います。

【柳楽編集長】ため込んでたのはお金じゃなくてストレスだったと(笑)

【谷井氏】それをお金で解消しようとして素寒貧の状態で銀行を辞めたものですが(笑)、ロースクールに通う学費くらいは何とかあったかなというくらいで。ただ、3年間東京で下宿生活ということになると、借金まみれになってしまいます。そういうことからすると実家から通って節約すれば、自分で学費が捻出できそうだったので、踏ん切りがつきました。

【柳楽編集長】なるほど。地元にロースクールがあって良かったわけですね。

【谷井氏】そうですね。

【鈴木幹事長】大磯さんは、ロースクールに通っていた時は医師の籍はどうされていたのですか。

大磯氏

【大磯氏】やはり一旦、社会人になると、親から生活費をというわけにもいかないので、学費と生活費をどのように賄うかというのは社会人共通の悩みどころだと思います。私の場合は恵まれていて、医師は医籍登録の年会費がかかりませんので、週に1.5コマ、1日半、内視鏡や診療をしたりして、それで最低限の生活費と学費を稼がせていただきながら、ロースクールに通うというような形でなんとかやっていけました。


弁護士になったことが自分のバックグラウンドの世界にどのように役立っているか

【鈴木幹事長】さきほど、自分のバックグラウンドがどのように今の弁護士業務に役立っているか、というお話をおうかがいしましたが、では逆に、弁護士になってみて、そのことが自分の元いた世界に対してどのように貢献しているか、という点をお聞かせいただけますでしょうか。

【大磯氏】帝京大学医学部で「医療法学」という講義をさせていただいておりまして、ロースクールで学んで、また現在の実務での経験を医療の現場、学生にフィードバックするということをさせていただいています。また、8月29日には、東京大学でシンポジウムを開かせていただきました。この10年間の医療と司法の関係における不幸というのは、十分な対話がなされないまま、訴訟が急増し対立構造となってしまったことだと思います。その結果、病院関係者、医師の法曹に対するアレルギーがすごく強くなっています。ただ、この10年間確かに、いきすぎた訴訟であったり、過度な司法の介入があり、医療現場の崩壊が生じてしまったというのはある面で事実ですが、その一方で、司法が介入したことによって、インフォームドコンセントがきっちりされるようになりましたし、カルテ開示も大きい病院では速やかに開示するようなシステムができるようになるなどプラスの面もありました。問題が生じた原因は、医療現場に介入していく中で、やはりコミュニケーションが不足していたなというのが私の思っているところでして、その溝を一つ一つ埋めていきたいという思いがあり、医療と司法の相互理解の促進をテーマに、医学部で講義をさせていただいています。

【鈴木幹事長】日吉さんはテレビ局にお勤めで、元々アナウンサーだったのですが、いかがでしょうか。

【日吉氏】マスコミの現場は、今のお話と比べると、良い意味でも悪い意味でもまだ司法の世界から遠いところがあります。マスコミの取材する側とされる側の関係とか、どういうところに配慮をしないといけないのかだとか、そこで生じる法的リスクだとかそういったものも含めて、いわゆるリーガルなリテラシーというのでしょうか、そういうものをマスコミの人間、報道の現場にいる人たちとか、バラエティショーを作っている人たちとか、そういう人たちに持ってもらえるために、貢献できるようなことはまだまだたくさんあると思います。

【柳楽編集長】BPO(放送倫理・番組向上機構)ってありますよね。BPO の理事長や委員には弁護士の方が多数入っていますよね。

【日吉氏】はい。

【柳楽編集長】そういった弁護士さんの言っていることは、マスコミ、放送局からはどのように受け止められているのでしょうか。温度差みたいなものはあったりしますか。

【日吉氏】非常にあるのではないでしょうか。テレビ制作の現場の人達がBPO の決定だとか勧告だとかを見ても、殆ど判決と同じような書き方になっていて、何を言っているのかよくわからない。それまでの攻撃防御も、準備書面のやり取りなどまるで訴訟と同じやり方なのです。ああいうものをテレビの制作現場の人が読んでも、何を言っているのかがよく分からない、というところがあるようです。BPO というのは、我々放送局が自主自律的なコントロールをして、そのかわり公権力の介入を防止しようという趣旨で作られたものなのですが、我々の味方なのだ、上手に使っていけばいいのだというような考え方ができている人は、あまり多くはないのではないかと思います。

【鈴木幹事長】日吉さんにこれからも頑張っていただかないと、中々その溝が埋められないですね。

【日吉氏】テレビ業界に沢山人が増えて欲しいです。

【大磯氏】医療でも同じことが言えると思います。司法のシステム、スキームで処理をして、判決文を読んでも医師にはその意味するところが分からない。結局何が言いたかったのか、何がいけなかったのということがやはり医療者としてわからない。その結果、誤解をしてしまったり、過大に捉えて必要以上に萎縮してしまうということが起きたのです。それは司法界側も、他のプロフェッションの領域に入っていくときに、自分の司法のメソッドだけに捕らわれて、司法言語を使って話をする。

【柳楽編集長】独得のプロトコルですものね。

【大磯氏】そうです。それが誤解を生んでいるというのはあって、正にいま日吉先生がおっしゃったようなことを利用者側がすごく強く感じていたというのがあるのです。それを私たちが懸け橋としてできればいいのですが、司法側も少しずつ、せめて古文ではなく現代文に近いような言い方で書いてくれると、開かれた司法と言う意味でもいいのかなと思います。

【鈴木幹事長】谷井さん、どうですか。銀行は結構司法とは接する場面は多かったと思いますが。

【谷井氏】銀行時代には色々訴えられている案件も見ましたので、銀行自体は、別に法律家と付き合っていくことに対してアレルギーはないと思います。ただ、今までの法律家の方々というのが、法的手続を中心として再生というのを考えるのに対して、銀行が企業をバックアップするときのようにちょっと泥臭いことをやるというか、知恵を使うことで、企業ももっと資金繰りが楽になったりということが多々あるので、そういうアドバイスという点では、今までの方が踏み込めなかったところに行けているのかなという気もします。

【鈴木幹事長】宮内さんは学部時代から国際、人権に関心を持たれて、ロースクールでもその面は深められたというのもお話にありましたが、今、弁護士資格を取って、具体的にその分野の志に今どのように活きているのかなというのを伺いたいのですが。

谷井氏

【宮内氏】色々あります。先ほどもお話したとおり、難民や外国人の事件に取り組む際、法科大学院で培った行政法や国際法の知識は非常に活きています。最近は、弁護士会やNGO を通じて、災害復興支援活動に携わり、被災地で活動する傍ら、被災者や原発の問題について政策提言を行ったりもしています。私も、震災が発生するまで知らなかったのですが、国際法の領域では、従来からの人権規範のほかにも、自然災害や放射能汚染に関する規則やガイドラインがたくさん存在します。このような規範等にも目を向けながら、国内法の不足領域を補ったり、強化したりして主張を構成するようにしています。このような視点で問題に当っていけるのも、法科大学院時代に様々な分野について、多角的に勉強できた結果だと思っています。このように、法科大学院で勉強したことがそのままダイレクトに活きるというよりは、そこで培った思考方法やノウハウが、活動や分野を問わず、幅広く汎用できるというのが私の正直な感想です。


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